いくら読んでも想像力が高まらないニュースがある。働き方改革を論議している国会の論戦がそれだ。裁量労働制度の適用対象拡大をめぐる論戦が、厚労省のデータの取り扱い方に関連したミスに集中している。与野党とも「どっちもどっち」の体たらくで、本来やるべき日本社会のあるべき姿と働き方改革のあり方という本質論に一向に迫らない。政府は施行時期の1年先送りを検討しているようだが、法案そのものは今国会での成立させる方針を変えていない。野党がどんなに反対しても働き方改革に関連した一括法案は成立するだろう。「安保法制」や「共謀罪」と同様、絶対反対の野党は今回もまた無修正で法案を成立させる影の立役者になる。

そもそも裁量労働制度の拡大で労働時間の長短を議論することにどんな意味があるのだろうか。本給に上乗せするみなし時間外労働の長短については労使が真摯に話し合えば済むことで、国会で長短を議論することにほとんど意味はない。長時間の時間外労働にともなう過労死やブラック企業を排除するために、一般労働者を対象に時間外労働に上限を設ける制度も盛り込まれている。電通で起こった女性社員の自殺が世の中に強烈なインパクトを与えたことが脳裏に焼き付いているのだろう。裁量労働制度と時間外労働が一直線で結びついている。複雑でデリケートで、多くの人が対象となる働き方改革が、黒か白かという単純な時間外労働の多寡という一点のみで議論されている。

働き方改革にパーフェクトな正解はない。世界中で時代に合わせた最適解を求めようとしているのが昨今の姿だろう。ポイントは労働者から見れば働くことに対する「生きがい」「健康」「生活」「ゆとり」といったものをどうやって確保するかということがポイントになり、企業サイドから見れば「生産性を高めること」「コストを削減すること」が必須の条件になる。第4次生産革命で人間の仕事はどんどんロボットに奪われる時代がきている。ロボットは24時間、365日黙って働き続ける。そんな時代を前に我々が考えるべことは未来を先取りした「労働の質」だ。与野党の論戦はこうした点に踏み込んで貰いたいのだが、期待するだけ無理だろう。

参考:裁量労働制の国会論戦は与野党ともに論点がずれている