4日付の朝日新聞1面トップに「裁量労働 社員が過労自殺」という記事が掲載された。3面にはその解説もある。国会で裁量労働制度の適用拡大法案が問題となっているタイミングを捉えた記事である。絶妙のタイミングというべきか。

この記事ならびに記事の背後には日本の働き方をめぐる様々な問題が隠されている。政治の駆け引きももちろん一つの要素だ。少子高齢化が進む中で日本人にとって働き方はどうあるべきか、社会全体で検討すべきだと思うが議論は往々にして善か悪か、黒か白か、賛成か反対か、極論と極論がぶつかる二項対立に流れがちになる。

問題はそんなに単純ではないと思う。黒と白の間に多くの解決すべき課題が横たわっている。個人的にこの記事が提起した論点を整理してみた。

1.野村不動産の違法行為を公にした裏に官邸の関与はあったか

2.厚生労働省の東京労働局が野村不動産に対して行った特別指導は同労働局の自主的な判断だったか

3.野村不動産は違法性を認識していたか

4.野村不動産は当該社員の体調を把握していたか

5.過労自殺に至る経緯ならびこれを避ける方法はなかったのか

裁量労働制度、あるいはこれから議論が始まる「高度プロフェッショナル制度」(いわゆる高プロ)を考える上で、朝日新聞の記事はいろいろな論点を提起していると思う。企業が違法にこの制度を悪用する可能性はもともと指摘されていた。過大な時間外労働と健康管理の問題、少子高齢化のなかで量から質への転換が求められている働き方改革、生産性とコスト削減の関係、単純労働が機械に置き換わろうとしている現実、未来のあるべき働き方はどうあるべきか、そして何より裁量労働制の意義など検討すべき論点は山ほどある。

朝日新聞が掲載した記事が多角的な議論を巻き起こす契機になればいいのだが、多分そうはならないだろう。国会の論戦やメディアの報道は“黒白論争”に終始し、重箱の隅を突くような感情論に終始しそうは気がする。果たしてどうなるか。参考までに朝日新聞の記事を掲載する。