財務省は8日、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書の写しを国会に提出したが、文書が書き換えられたとされる疑惑は解明されなかった。毎日新聞が入手した別の文書には「本件の特殊性を鑑み」などと学園への対応が特例だったことを示す表現があったことも判明。政府の立場は厳しさを増しており、自民党総裁3選などの安倍晋三首相の政権戦略にも影響を及ぼしかねない。

 「原本に当たる文書は大阪地検に提出した。写し以外で、ということなら調査は継続中です」

 「財務局に現在あるコピーはこれで全てです」

 財務省の富山一成理財局次長は8日朝の参院予算委員会理事会で、書き換え前と書き換え後の2種類の文書が存在するのかしないのかについて、言を左右にし続けた。

 同じ写しを既に入手していた野党は「他に文書がないと明言してほしい」(立憲民主党の蓮舫参院国対委員長)、「文書はこれが全てだと明言してくれないと議論を始められない」(民進党の川合孝典氏)と猛反発。野党議員の多くが午前9時から予定された予算委集中審議を欠席した。

 空席が目立つ委員会室で最初に質問した自民党の三木亨氏は「地検の捜査に配慮する」という政府の釈明に理解を示したが、「財務省から十分な説明がない」と苦言。安倍晋三首相は時折手元に視線を落としながら、「早期に説明できるよう、財務省を挙げて最大限努力してもらいたい」と低姿勢に終始した。

 この日の財務省報告は、文書の存否をあいまいにし続ける政府の対応を懸念した自民、公明両党幹部が、期限を切って異例の要請を行った結果だ。首相は前夜に自民党の二階俊博幹事長と会食した際、森友問題には具体的に触れず、二階氏の杯へ日本酒をついで、政権運営への協力に「ありがとうございます」と頭を下げた。菅義偉官房長官も8日の記者会見で「審議が円滑に進むよう、国会の要請には一つ一つ誠実に対応したい」と配慮した。

 だが肝心の文書の存否は「ゼロ回答」で、与党からもさらに説明を求める声が強まる。自民党の岸田文雄政調会長は8日の派閥会合で「もし書き換えがあったとしたら、これはもう言語道断で、許すことはできない」と強調。財務省は職員からの聞き取り調査の結果も参院へ報告しておらず、公明党の北側一雄副代表は「(報告は)終わっていない」と指摘した。

 野党が求めた「元の文書」が開示される見通しも立っていないようだ。麻生太郎副総理兼財務相は8日の参院予算委で「捜査の最終的な結論が出る前の段階も視野に入れる」と、詳細な説明の時期に言及。ただ、法務省の辻裕教刑事局長は「捜査に支障を生じる恐れがあり、極めて慎重に判断する」と文書の開示に否定的な姿勢を示した。首相官邸幹部は「問題が長引けばボディーブローのように効いて、内閣支持率が下がりかねない」と懸念を口にした。

 逆に野党は、あいまいな説明が続くほど安倍政権に「グレー」の印象が濃くなるとみている。立憲の辻元清美国対委員長は「政府は二階さんの顔にも泥を塗った」と強調。毎日新聞が報じた「特殊性に鑑み」との文書について、民進党の大塚耕平代表は「『国有地の地下ごみが特殊だった』と政府が抗弁するなら、地下にごみが埋まっていたということを、さらに論証しなければならない」と追及する姿勢を見せた。

 仮に今後書き換えが確認された場合、政権への打撃は計り知れない。麻生氏の進退に発展する可能性を問われ、自民党幹部の一人は「バカな。ありえない」と一蹴したが、推移を見守るだけの中堅議員は「書き換えがあったのかなあ」と不安そうに漏らした。【遠藤修平、光田宗義】

首相の強気、鳴り潜め

 安倍政権は、公文書などを巡る問題で再三ダメージを受けている。

 南スーダンに派遣した自衛隊の国連平和維持活動(PKO)を巡っては、フリージャーナリストによる情報公開請求で「陸上自衛隊で廃棄済みにより不開示」とされていた日報について、陸自内で保管されていたことをNHKが昨年3月に報道。稲田朋美防衛相(当時)は直後の国会で、「(陸自から)報告されなかった」と答弁し、安倍晋三首相も稲田氏をかばい続けた。

 しかし、その後に陸自が稲田氏に報告していたと一部メディアが報じると、状況が一変。昨年7月の防衛省特別防衛監察の結果、「防衛相に(幹部から)何らかの発言があった可能性は否定できない」と指摘されたこともあり、稲田氏は辞任に追い込まれた。

 首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡る問題では、政府は当初強気の姿勢で沈静化を図ろうとした。昨年5月17日、獣医学部の新設が「総理のご意向」などと書かれた文部科学省の内部文書が明らかになると、菅義偉官房長官はその日の記者会見で「怪文書みたいな文書。出所も明確になっていない」と指摘。文科省は2日後、「文書の存在は確認できなかった」との調査結果を発表した。

 ところが、前川喜平前文科事務次官が記者会見して「文書は真正のもの」と明らかにし、新たな文書の存在も次々と明らかになったことで同省は再調査に追い込まれ、文書の存在を認めざるを得なかった。

 そして、森友学園への国有地売却問題。開示された公文書を盾に首相は激しいメディア批判を展開していたが、今回の疑惑報道で政府は守勢に回っている。

 学園が国有地に小学校を設立するため、財務省に提出した「(小学校)設置趣意書」について、同省は当初、計画されていた学校名を黒塗りにして野党議員らに開示。朝日新聞は昨年5月、籠池泰典前理事長への取材を基に、校名に「安倍晋三記念小学校」と記されていると報道したが、同省は昨年11月、黒塗りを解いた文書を明らかにし、「開成小学校」と記されていたことが判明した。

 これ以降、首相はこの朝日新聞報道を開会中の通常国会で繰り返し取り上げ、「間違い」「裏取りがない」と批判している。

 これに対し、決裁文書が書き換えられたとされる朝日新聞による疑惑報道では、財務省は現時点で「調査中」を理由に説明を拒んでいる。元文科省大臣官房審議官の寺脇研・京都造形芸術大教授は「報道が事実か否かは1日もかからず分かることで、役人の世界を知る者からすると理解に苦しむ。報道は事実で、時間稼ぎをしているとしか思えない」と苦言を呈した。【杉本修作、山崎征克】