米中の貿易戦争は姿や形が見えないまま、連日大戦争が勃発するかのような報道合戦になっている。通商戦争は「不可避」といった見方が強まった翌日には、「米中とも交渉で問題解決を望む」との楽観論が広まり、どちらに転ぶか先行きは全く見えない状況だ。けさになってトランプ大統領は、総額で1000億ドル規模になるような追加制裁を検討するよう通商代表部(USTR)に指示したとの情が飛び交い、再び暗雲が漂い始めている。いずれにしても米中の通商交渉は水面を含めて始まったばかりだろう。いまのところ米国も中国も言葉の応酬を繰り返しているに過ぎず、言葉使いだけが激しくなっている。為替も株もこの一見激しいジャブの応酬に過敏に反応しているが、戦争はまだ始まっていない。
今回の通商交渉、鍵を握っているのは「知的財産権」である。トランプ大統領は中国が米国の知的財産権を侵害していると激しく攻撃しているが、何をどう侵害しているのか、その具体的な事例はほとんど語らない。制裁は知的財産権の侵害で損害を被った輸入額を500億ドルと推定し、これに見合った規模の経済制裁を科すというもの。米国が500億ドルと主張すれば中国も同額の制裁を科すと対抗する。双方の応酬を受けてトランプ大統領は今朝、追加制裁を1000億ドル上乗せするよう指示した。おそらく中国もこれに見合った追加制裁を発表するのだろう。両国の応酬は一段と激しさを増すことになる。こうした中で個人的に気になっているのは、知的財産権が侵害されたという具体的な事例だ。
当局が発表していないせいかもしれないが、メディアも具体的には触れていない。トランプ大統領は昨年中国の知的財産権の侵害について調査するように通商代表部に指示している。その時の調査で民間団体である「米国知的財産の窃盗に関する委員会」の代表者が、「広範囲な侵害は続いている」とし、「程度と影響に基づいた対抗策が必要だと主張した」と当時ロイターは伝えている。不公正貿易に関連して米国が問題にしているのは、習政権が2015年に発表した「中国製造2025」とういう長期計画だろう。中国は2025年までに中国製品の占有率を70%に引き上げるとしている。ここで主役となるのが最先端技術を使ったハイテク製品だろう。中国は知的財産権を侵害して得た情報をもとに米国に対抗する「強国」を目指している。これがトランプ政権の危機感だとすれば、通商戦争の報道合戦はいまとは異なった色合いになる。メディアはそこをもっと追求すべきだ。