[東京 19日 ロイター] – 安倍晋三首相は日米首脳会談後の合同記者会見で、自由で公正な貿易・投資を目指すための協議を開始することでトランプ大統領と一致したことを明らかにした。茂木再生相とライトハイザーUSTR代表が責任者になる。市場関係者の見方は以下の通り。

<JPモルガン証券 チーフ株式ストラテジスト 阪上亮太氏>

市場はもう少し悪いシナリオを警戒していた部分があった。トランプ米大統領による為替への言及や、通商問題に関する踏み込んだ発言が出てくることへの警戒感があったが、会見の内容は思ったほど悪いものではなかった。日本株には安心材料になるとみている。

FTA(自由貿易協定)にしても、TPP(環太平洋連携協定)にしても、方向性としては自由貿易を進めていくものだ。これまで米国の通商政策に関して市場が懸念していたことは、保護主義が広がり経済にマイナスの影響をもたらすのではないか、ということだった。自由貿易自体は本来的には市場が好感するものであり、明確にそちらの方向を目指しているという点もマーケットにはプラスだ。

日本にとっては、引き続き為替や金融政策について米国からけん制されるというのが一番避けたいシナリオだ。対日貿易赤字を減らしたいという米国の姿勢は一貫している。これに対し日本がどういう解決策を提示できるかがポイントになる。軍装備品の購入や、エネルギー分野の輸入、農産物市場の開放という3つが焦点になるとみている。これで米国側を納得させることができれば、日本にとって米国との関係が悪くなることはないだろう。

米国との通商問題がそれほど大きなものに発展しないのであれば、次に市場が焦点とするのは日本の国内政治となる。米朝首脳会談が実現すれば、それ自体は望ましいことではあるが、安倍内閣の支持率にどれだけ影響するかは不透明な部分が残る。拉致被害者の帰国など大きな進展が見えれば、当然、内閣支持率の回復につながる。だが、それがなければ支持率への影響は出にくいだろう。

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアマーケットエコノミスト 六車治美氏>

注目された通商問題について、トランプ米大統領は2国間協定が望ましいとの立場を示し、環太平洋連携協定(TPP)への復帰に慎重な姿勢を示した。一方で、安倍首相はTPPが最善とし、2国間協定に慎重な姿勢を示した。

新しい通商交渉は今後、茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表との間に設置されるテーブルに移るが、今回の日米首脳会談は両国の立場と見解を確認しただけに終わった。

米朝首脳会談を控えて、北朝鮮情勢が転機を迎える可能性がある中で、通商問題で日米が対立する構図を避けたかったという側面があったのではないか。今回の日米首脳会談でトッププライオリティーは北朝鮮問題だったのだろう。

今回の日米首脳会談は、通商問題で首相訪米前から大きな変化はなかった。市場にとってニュートラルの材料とみている。

<シティグループ証券 チーフFXストラテジスト 高島修氏>

トランプ米大統領は共同記者会見で、引き続き貿易赤字削減の意向を示した一方、為替には全く言及しなかった。自由貿易協定(FTA)は日本はTPP(環太平洋連携協定)、米国は2国間という溝がある状況だが、今後の進展次第。鉄鋼・アルミに関しても日本はまだ輸入制限対象ということで、いずれも相場を動かす材料にはならなかった。

日米通商交渉に向けて静かにゴングが鳴ったが、今後の交渉の過程では円高圧力が加わる場面が出てくる可能性がある。

2015年にアトランタでTPP交渉が大筋合意した際、為替操作を控えるという共同声明が出されており、米国がTPPに復帰を検討する場合にはそれが当然意識されよう。また、日米2国間FTAになるとしても、条約の本文に入ることはないだろうが、先般の米韓FTAのように附属文書に通貨安誘導を制限する文言が盛り込まれるかもしれない。目先は後者の方がより重要になりそうだ。