• M&A案件が7月ぐらいからどっと出てくる可能性-三菱UFJ銀
  • 円高を止める一要素として無視できないものに-みずほ銀

日本企業としては過去最大規模となる武田薬品工業の欧州企業買収など海外M&A(合併・買収)が活況を呈する中、今年度の対外・対内直接投資は過去最大の流出超となる可能性があり、為替市場関係者は一定の円安圧力になるとみている。

野村証券の予測では、企業のM&Aや現地法人の再投資を主因に、対外直接投資から対内直接投資を差し引いた金額は2018年度に過去最大の21.3兆円に膨らむ。池田雄之輔チーフ為替ストラテジストは、約半分の10兆円が円資金を外貨に換える円投とした場合、6円程度の円安圧力になると試算し、「緩やかながら円安を促進する需給」とみる。

財務省の統計によると、直接投資の流出超は13年度以降、10兆円を超えており、16年度には過去最高の17.1兆円に達した。当時のドル・円相場は中国景気への不安や米国の追加利上げ観測の後退などを背景に円高が進み、16年6月には英国の欧州連合(EU)離脱の選択を受けて一時1ドル=100円を割り込んだが、その後は円高に歯止めが掛かり、年末にかけて118円台を回復した。

JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、これまではリスク回避になると円の上昇が加速しがちだったが、ここ数年あまりそうならないのは対外直接投資に伴う資金フローが出ていることが一因だろうと分析する。

三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの関戸孝洋ジャパンストラテジストも、1、2月は小粒でも相当な件数のM&Aが対外直接投資を押し上げたとし、1-3月に米中通商摩擦などが生じた中でもドル・円が比較的耐えられた背景の一つとして、対外直接投資による「クッション効果」を挙げる。国内での成長に限界がある中で、決算発表とその後の株主総会を経て、M&A案件が「7月ぐらいからどっと出てくる可能性がある」と話す。

ブルームバーグのデータでは、今年発表された日本企業の海外M&Aは12.5兆円で、過去最大だった16年の金額に4カ月余りで並んだ。武田薬は8日、バイオ医薬品メーカーのシャイアーを総額約460億ポンド(約6兆8000億円)で買収することで合意したと発表した。

大型M&Aを巡っては、派生する円売りの規模や時期が為替市場の関心事。野村証の池田氏は、一般論としてグローバル企業は手持ちの外貨や外貨建て資金調達を活用することで円投部分が買収規模より小さくなったり、合意発表前の段階で外貨を手当てする可能性があるため、「円安圧力は過大視すべきではない」と言う。一方で、「日本企業による対外直接投資が積極的であると印象付けられることで、海外投機勢などの円売りを後押しする可能性はある」とみる。

みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストはリポートで、武田薬による買収額は過去2番目の大きさとなった17年の経常黒字額の3分の1に相当し、需給環境への影響はこれまでの案件に比べて段違いに大きい可能性もあると分析。「18年に入ってからの基礎的需給環境が円売り超過に傾斜したことを思えば、『円高を止める一要素』としての対外直接投資は無視できないものになりそう」と指摘する。