週末、米中両国は貿易摩擦の解消で合意した。もっと正確に言えば、関税の引き上げ競争はとりあえず先送りすることで合意したということだろう。それ以外に合意の具体的中身は明らかになっていない。米国の代表者が中国に行って今後詳細を詰めるということのようだ。言ってみれば交渉は大枠で合意したに過ぎない。大枠とは貿易摩擦の解消に双方が努力するというにすぎない。当たり前のことである。その当たり前のことを「声明」という形で公表するところにこの問題の微妙な扱い方が現れている。恐らく北朝鮮の問題やZTEの扱いも難航しているのだろう。高関税競争という駆け引きはとりあえずやめて、通商問題の解決に取り組もうということだ。

新華社によると中国の代表団を率いた劉鶴副首相は19日、ワシントンで「今回の交渉の最大の成果は双方が貿易戦争をせず、お互いが追加関税をかけあうのを停止するとの共通認識に至ったことだ」(日経新聞)と語った。世界経済にとって最大の懸念材料だった米中の高関税競争がとりあえず回避されたことはプラスに評価してもいいだろう。だが、ここまでリスクを高めないとごく当たり前の結論に到達しない交渉のあり方そのものが問題である。国家同士の争いだとはいえ、武器を使った殺し合いに至らないまでも、交渉そのものが戦争を意味しているとすれば、人類にとっては悲しいことだとしか言いようがない。

それにしても合意の中身は新鮮味がない。中国が一方的に米国からの輸入を増やすことがポイントのようだ。ただ日経新聞によると、「米国側が2千億ドル(約22兆円)の赤字削減を求めたのに対し、中国側は数値目標の設定には慎重姿勢を崩さなかった。今後の交渉でも削減額を巡り対立が再燃する可能性もある」としている。米国側にとっての貿易赤字削減は意味のあることだろう。だが、有名ブランドのコピー商品が大量に出回るなど、知的財産権に対する侵害など中国の常識を逸した商習慣など、重要な問題ではほとんど進展がないようだ。知的財産権の侵害は米国一国の問題ではない。世界中が連携して取り組むべき課題だ。その面ではトランプ大統領が掲げる「アメリカ第一主義」が、ここでも障害になっている。