デービッド・ブレナン

抗日戦勝70周年へ向けて編隊飛行の練習を行う中国空軍の爆撃機(2015年、北京郊外で)Jason Lee-REUTERS

<南シナ海での「戦闘」を想定した人工島での離発着訓練はアメリカや周辺諸国に向けたメッセージ>

中国は南シナ海に建設した人工島の一部に、核攻撃が可能な爆撃機を初めて展開させた。これは周辺諸国、特にアメリカに対する「この海域の支配権は中国にある」という警告だ。

ロイター通信によれば、中国空軍は5月18日、「南シナ海での戦闘」を想定した演習の一環として、核搭載可能なH6K爆撃機を複数の島や環礁に着陸させたと発表した。

発表によれば演習は「いつ何時でも中国の全領土に到達し、全方位で攻撃を行う能力を向上させる」ためのもの。アメリカや周辺諸国との対立の火種になっている島々で爆撃機を離発着させる訓練も行われた。艦艇を標的とした攻撃の模擬訓練も行われた。

南シナ海では、中国の他にベトナム、フィリピン、台湾、ブルネイ、マレーシアが領有権を主張している。豊かな漁場や重要な航路があり、地下資源も眠るといわれるこの海域で、中国は周辺国やアメリカの反対にもかかわらずいくつもの人工島を作って軍事施設を建設している。

中国による支配の「既成事実化」

これまでアメリカは、南シナ海は国際水域であると主張し、米軍の艦船や航空機による「航行の自由」作戦を展開してきた。島々の造成や軍事施設の建設の目的はあくまでも防衛だと中国は主張しているが、そのプレゼンスは中国による南シナ海支配の既成事実化につながっている。

島々では要塞化が徐々に進み、ミサイルや電子戦システム、そして軍用機が配備されるようになった。一部の島には3000メートルの滑走路や戦闘機の格納庫、武器弾薬を保管する掩蔽壕や兵舎、軍用艦のための水深の深い桟橋もある。

核搭載可能な爆撃機を格納する施設も以前から存在していたが、今回の訓練はアメリカや東南アジア諸国に対し、南シナ海が中国空軍の活動範囲内であることを誇示している。H6Kの航続距離は約6000キロにおよぶ。

空軍の報道発表では演習が「南シナ海での戦闘」を想定したものだとまで踏み込んで述べている。またBBCによれば、報道発表には「(演習は)われわれの勇気を高め、真の戦争における能力を高めてくれる」という H6Kのパイロットの言葉も引用されている。

演習が行われた正確な場所は公表されていない。だが、人民日報がツイートしたH6Kの離着陸訓練の動画から、専門家はBBCに対し、ウッディー島(中国名:永興島)の可能性があるという。同島は西沙(パラセル)諸島最大の島で、ベトナムと台湾も領有権を主張している。

米国防総省のクリストファー・ローガン報道官はAP通信に対し、アメリカは「自由で開かれた(インド太平洋海域)への関与を続けていく」と述べている。「南シナ海の領有権が争われている海域で中国が武装を続ければ、地域の緊張を高め不安定化させるだけだ」

アメリカとの戦争以外なら支配できる能力

だが中国に言わせれば、悪いのはアメリカだ。王毅(ワン・イー)外相は3月「外部勢力は平穏を喜ばず、この海域で問題を起こし混乱を招こうとしている。彼らはしばしば、完全武装した航空機や軍用艦による力の誇示を行っている。これはこの地域で最も大きな不安定化要因だ」と述べている。

アメリカの抵抗にも関わらず、中国は島々を要塞化して南シナ海の事実上の支配権を手にしている。米海軍艦隊総軍司令官を務めるフィリップ・デービッドソン大将に言わせれば「中国は今や、アメリカとの戦争を除くいかなるシナリオにおいても南シナ海を支配する能力をもっている」のだ。

(翻訳:村井裕美)