山広恒夫

  • 失業率の底から約1年で景気後退、これで再選に失敗した例は数々
  • 先行する白人失業率は昨年10月の3.5%が底か、5月も同率
トランプ大統領、Photographer: Kevin Dietsch/UPI

米労働省が6月1日に5月の雇用統計を発表する直前、トランプ大統領は「8時半の雇用統計が楽しみだ」とツイッターに投稿し、債券利回りと銀行株を押し上げた。大統領は統計発表の前日にその内容を知らされていた。雇用が予想以上に増え、失業率が低下したことから、大統領は発表前に喜びを国民と分かちあいたいという衝動にかられたのかもしれない。しかし統計内容を精査すれば、大統領にとって不吉な前兆が浮かび上がってくる。景気後退の接近を告げているからだ。

歴代大統領の中で、一期をまっとうしながら再選に失敗したケースでは、景気後退の影響が強い。ジョージ・H・W・ブッシュ第41代大統領(1989ー93年)は、景気後退期直後の雇用なき回復の中で行われた92年の選挙で敗退。ジミー・カーター第39代大統領(77ー81年)も80年の選挙で同じ運命をたどった。トランプ大統領は2020年に再選を迎える。

雇用統計の中でも、失業率は景気拡大期の終わりをかなり正確に告げる。失業率が底を打つと、景気拡大期はそれから1年前後でピークを付けるからだ。前回の景気拡大期では失業率が06年10月に4.4%で底を付けた後、1年2カ月後にグレートリセッション(大不況)に突入。その前の拡大期では2000年4月に失業率3.8%を付けた後、11カ月後に景気後退に陥っていた。

 

今年5月の失業率は3.8%に低下、2000年4月と並ぶ水準となり、さらにさかのぼると1969年12月(3.5%)以来の低い水準だ。69年12月はまさに景気後退に突入した月に当たる。このように失業率の底は景気転換点の接近を告げる。現在の景気拡大期は来年7月まで続けば、史上最長を更新する。失業率はいつ底を打ってもおかしくない。

失業率は細分化するとさらにヒントを与えてくれる。人種別にみると、5月の失業率が低下したのは黒人労働者の数値が改善されたことが大きい。トランプ大統領は今年1月の一般教書演説で、「黒人労働者の失業率が史上最低水準になった」と自分の功績として自慢していた。これは間違いではないが、実際はそう単純ではない。

黒人の失業率は昨年12月に6.8%となり、それまでの最低だった2000年4月の7.0%を下回った。しかし絶対水準は非常に高く、白人など他の人種との格差は依然大きい。そして今年5月の全体の失業率低下は、この黒人失業率の下げが大きく貢献していた。黒人失業率は4月の6.6%から5月の5.9%へと、0.7ポイントも低下していたのである。

 

一方、白人の失業率は5月に3.5%と、前月から0.1ポイントの低下にとどまった。しかも3.5%は昨年10月と同水準であり、底固めの様相を呈している。過去を振り返っても、白人の失業率が黒人に先行する傾向があり、失業率の底入れを示唆しているといえそうだ。

(【米FRBウオッチ】の内容は記者個人の見解です)