ブルーンバーグ(BB)に掲載された「トランプ大統領、ツイートしている場合じゃありません」という記事が面白い。5月の雇用統計が発表された1日、トランプ大統領は統計発表前に「8時半の雇用統計が楽しみだ」とツイッターに投稿した。大統領が雇用統計の中身を匂わせたことによって、金融市場では債券の利回りが上昇、銀行株などが急騰した。BBによると大統領は統計発表の前日にその内容を知らされていたという。雇用の予想外の増加と失業率の低下に気をよくした大統領は「発表前に喜びを国民と分かちあいたいという衝動にかられたのかもしれない」とBBは推測する。いかにもトランプ大統領らしい振る舞いだが、これは明らかにインサイダー情報である。

でもこれは本題に入る前の軽いジャブ。BBの記事の狙いは「失業率が最低を記録したほぼ1年後に景気はピークを打ち、時の大統領は再選に失敗する」という過去の事例の検証である。1日に発表された5月の失業率は3.8%。2000年4月にも3.8%を記録しているが、この時はクリントン政権の2期目。翌年の大統領選挙では民主党のゴア氏が共和党のブッシュ氏に惜敗している。そのブッシュ大統領も2006年10月に失業率が4.4%と底をつけ、その1年2カ月後にグレートリセッションに直面する。このあとリーマンショックが発生、この年の大統領選挙で民主党のオバマ大統領が誕生した。このほか民主党のカーター大統領、レーガン氏のあとを受けたブッシュ大統領(父)も同じ轍を踏んでいる。

トランプ大統領の再選は2019年11月。あと1年ちょっとである。同大統領の任期中に米国の失業率がボトムをつけることは間違いない。過去の事例が当てはまるとすれば、来年の再選挙で同大統領に勝ち目はない。だからBBは言う「大統領、ツイートしている場合じゃありません」。景気の先行きは正直言ってわからない。ただ、米国についでどうやらEUも大規模な金融緩和の終焉を迎えつつある。ECBは来週の理事会で資産買い入れの停止について話し合うようだ。そうなると日本でも金利は上昇に向かうだろう。世界的に金利が上昇すると資源国の通貨が売られる可能性がある。それ以上に巨額の不良債権を抱える中国経済が心配だ。失業率が底を打てば景気はいずれピークアウトする。トランプ大統領にはまだ、1年先の不穏な空気は見えていないのだろう。