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欧米と広がる距離-出口見えず「具体的手法の説明は時期尚早」
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金融政策は8対1で現状維持-片岡委員は7会合連続で反対
日本銀行の黒田東彦総裁は15日の金融政策決定会合後の記者会見で、米欧と比較して日本だけが物価が上がらない状況について、企業や家計に残った根強いデフレマインドが原因との見方を示した。
黒田総裁は日本も米欧も「実体経済が回復し、拡大している割には、物価が上がってこなかった点はよく似ている」と分析。日本だけが物価上昇から取り残された特殊要因として2013年まで15年間続いたデフレと低成長が、「デフレマインドとして企業や家計に残っている」と述べた。
非製造業で省力化投資や情報関連投資が進み、「生産性が相当上がってきている」とも指摘。生産性が上昇すれば賃金が上がっても価格に転嫁しなくて済むため、「短期的には賃金の上昇にも関わらず、物価が上がらないことの一つの要素になっている」との見方を示した。
海外では、金融政策の正常化の動きが進み、緩和の出口が見えない日本との距離はますます広がっている。欧州中央銀行(ECB)は14日、資産購入の年内終了を決め、月間債券購入額を300億ユーロから10-12月には150億ユーロに減らすと発表した。米連邦公開市場委員会(FOMC)は12、13日の会合で、今年2度目の利上げを決定。18年通年の利上げ予測を4回に上方修正した。
黒田総裁は、日本は金融緩和の正常化へ向けた「具体的な手法やプロセスについて語るのは時期尚早」と指摘。適切な時期に市場と対話するとしたが、現時点での説明は市場を混乱させるとして時期も示さなかった。当分は「現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当」としている。
金融政策を振り返る「総括的検証」は「もう一回やることは考えていない」としている。為替については、金利差が拡大すれば円安になるとしたものの、方向性は「他の事情が一定でないので分からない」と述べた。
会合では、長短金利操作付き量的・質的緩和の枠組みによる政策運営方針の維持を8対1の賛成多数で決定した。片岡剛士審議委員は7会合連続で反対した。
誘導目標である長期金利(10年物国債金利)は「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)は「マイナス0.1%」といずれも据え置いた。長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持。指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針にも変更はなかった。
景気判断は「緩やかに拡大している」に据え置いた。足元の物価上昇率は「0%台後半となっている」として、4月の「1%程度」から変更した。
片岡委員は物価が2%に向け上昇率を高めていく可能性は低いとし、新たに「中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合には、追加緩和手段を講じることが適当」と提案した。4月は、国内要因による達成時期後ずれを追加緩和の前提としていた。発表では予想物価上昇率は「横ばい圏内で推移している」との判断が据え置かれた。
日銀は物価上昇のモメンタム(勢い)は維持していると判断しているが、最近の物価は弱含んでいる。ただ経済情勢や雇用環境は良好で、打つ手がないのが現状だ。ブルームバーグがエコノミスト45人に行った事前調査でも全員が現状維持を予想していた。
ブルームバーグの事前調査の結果はこちら
日銀は13年4月、2年程度を念頭に2%の物価目標を達成すると宣言して異次元緩和を始めたが、5年たった今も目標達成への道筋は見えない。16年1月のマイナス金利導入に続き、同年9月には誘導目標をお金の量から金利に変更する現行施策を打ち出したものの、賃金や物価の上昇につながっていない。
4月の生鮮食品を除く全国の消費者物価指数(コアCPI)は前年比0.7%上昇、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは0.4%上昇と低迷した。先行指標となる5月の東京都区部も0.5%上昇、0.2%上昇にとどまり、年度初めの価格改定期の値上げは不発に終わった。
黒田総裁は15年6月、ピーターパンの物語にある「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」という言葉を紹介した上で、大切なことは「前向きな姿勢と確信」だと述べた。3年たっても物価は停滞しているが、今日の会見では「信ぜよ、さらば救われんというつもりもないが、信じないのではなかなか物価も上がらないんじゃないかなという風には思っている」と前向きな姿勢を示した。