トランプ大統領と金正恩委員長の首脳会談を経て、米朝関係は緊張緩和が進んでいるように見える。その一方で、米国と中国の関係が緊迫の度を強めている。その間隙を塗って習近平主席は昨日金正恩委員長と会談した。習・金会談はこれで3回目である。北朝鮮の後ろ盾を自認する習主席とはいえ、この頻度は異常だ。そして、中国と米国の通商摩擦は日に日に深刻の度をましている。トランプ大統領は昨日、中国が対抗措置を打ち出せば追加措置を発動すると脅しをかけた。これに対して中国も一歩も引かぬ構えをみせる。貿易をめぐる緊張感は一段と高まっている。ノーベル経済学賞の受賞者であるクルーグマン教授は「トランプ大統領が貿易戦争に向かって行進する中、私は市場の慢心に驚いている」と警鐘を鳴らした。これに答えるように昨日のニューヨーク市場で株価が急落した。
トランプ氏が意識しているかどうかわからないが、トランプディールは少しずつだが深みにはまりつつあるように見える。トランプ氏は首脳会談を取りやめると宣言することによって、度の過ぎた北朝鮮の挑発的な態度を改めることに成功した。米朝首脳会談をへて北朝鮮を取り込み(そう思っている)、今度は貿易摩擦での譲歩を期待して中国に脅しをかけた。しかし、中国は北朝鮮のようには態度を変えなかった。目には目を歯に歯をもって米国に対抗してきた。そしてついに昨日は金委員長を呼びつけたのである。習主席はみえすいたトランプディールをあざ笑うかのようだ。ロシアンルーレットではないが、弱みを見せたほうが負けである。3回目の首脳会談は習主席の“強さ”の演出かもしれないが、執拗に取引を迫るトランプ大統領にディールが通用しないことを示したのである。
トランプディールは単純だ。米国第一主義に基づいていろいろなものをテーブルにあげ、あたかもそれらが相互に関連しているかのように見せる。そして相手の譲歩を引き出す作戦である。関税で中国に脅しをかけ、北朝鮮で譲歩を引き出す。そして主戦場だった貿易戦争はいつの間にか収束し、非核化に向けて中国は北朝鮮に圧力をかける。この作戦はある程度成功した。これに味をしめたトランプ大統領は、今度は逆の圧力をかけた。北朝鮮を引きずりこむことによって、貿易摩擦で中国の譲歩を引き出そうとしたのである。これには習主席もカッチときた。北朝鮮の金委員長を呼びつけ、中国の存在感を誇示したのである。中国の狙いはディール拒否である。かくしてロシアンルーレトはまだまだ続く。以上は独断と偏見に基づく個人的な分析である。