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トランプ政権の追加関税政策は「ワイルドカード」
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介入しても機能しないという教訓を得た中国、今は市場を重視
中国株は大きく下げ、人民元の下落も続いている。中国の政府系シンクタンクは国内で「金融パニック」が発生する可能性を警告した。「2015年」が繰り返されるのだろうか。
ここ1週間ほどの中国金融市場の激しい動きを目にすれば、本土株急落と事実上の人民元切り下げが世界中の投資家を動揺させた3年前を連想するのは当然だ。15年と現在の状況を検証する。
相場下落
中国株の時価総額は5カ月間で2兆ドル(約220兆円)近く失われた。だが15年とは比べものにならない。当時は、最初の3週間で3兆2000億ドル相当が吹き飛んだ。取引1分ごとにほぼ10億ドルが失われたことになる。上海総合指数は15年8月にたった1日で8%を超える急落を記録した。人民元切り下げを受け、元相場はわずか2日間で3%近く値下がりした。
バリュエーション
15年の株価急落前、中国株式市場は古典的な投機バブルに苦しんでいた。上海総合指数の予想株価収益率(PER)は19倍、同指数に組み込まれた数百銘柄では100倍を超えていた。上海総合指数の予想PERは現在10.5倍と、14年末以降で最も低い。米S&P500種株価指数との比較では記録的な割安水準だ。
中国経済
中国の経済成長は15年当時、減速していたが、中国人民銀行(中央銀行)は極めて緩和モードだった。金利を引き下げ、金融システムに大規模に資金供給していた。現在はそれほど政策緩和を巡り積極的には見えない。人民銀は一部銀行の預金準備率引き下げを発表したばかりだが、よく知られるようになった金融レバレッジ解消政策を後退させることを当局者は懸念している。
ワイルドカード
今は「ワイルドカード」とでも呼ぶべき不確実な要因がある。米中貿易摩擦が激化する中で、トランプ米大統領は中国からの輸入2000億ドル相当について追加関税を課す方針を示しており、これが実施されれば中国の経済成長率が最大0.5ポイント押し下げられるとみるエコノミストもいる。
世界の反応
世界の投資家は今年、中国株下落をそれほど気にしていないが、元安は確実に注目を集めている。対中エクスポージャーが大きいクアルコムやリオ・ティントといった先進国企業から成る指数は、6月初めに元安傾向が強まって以降、約7%下落している。
だが15年はずっときつい下げだった。予想外の元切り下げが引き金となり、世界の株式から成るMSCIオールカントリー世界指数は、11年の欧州ソブリン債危機以来となる10%下落の調整局面に入った。 中国の需要落ち込み懸念でブルームバーグ商品指数は25%安と、08年以来最大の年間下落率だった。
市場介入
中国当局は15年当時、日常的に外国為替市場や株式市場に介入していた。最近はそれほど激しくはないようだ。ステート・ストリートのロンドン在勤マクロストラテジスト、ティモシー・グラフ氏は「15年と似た状況は避けたいと中国が考えていることをわれわれは知っている」と述べた上で、「激しく介入しても機能しないという教訓を得た中国は、そうしたことを市場に任せている」と指摘した。
資本流出
15、16両年合わせた中国からの資本流出は推計1兆7000億ドル。そうした流出が今年繰り返されるとの兆しはほとんどない。資本規制の引き締めが、ほとんどの大都市で住宅価格がまだ上昇していることに寄与している。このため持ち家のある本土住民が資産価値の目減りを恐れて本土外に送金する動機は薄い。人民元の下落は最近始まったばかりで、元安が進行すれば、資本流出を巡る構図が短期間に変わる可能性もある。
原題:As China Markets Plunge, Here’s How Vital Signs Look Versus 2015(抜粋)