連載 高安雄一「隣国韓国と日本の見方」

米中間の貿易摩擦が日増しにエスカレートしている。3月1日にアメリカが中国から輸入する鉄鋼などに高関税を付すことを表明、同23日には実際に関税を発動し、4月2日には中国が報復関税を発動した。その後、さらなる制裁関税をアメリカが公表すれば中国が報復関税を公表することで応じるなど、関税戦争の様相を呈してきた。

アメリカは中国のみならず、EU、日本、カナダ、メキシコに対しても鉄鋼などに高関税をかけ、貿易摩擦は世界に波及している。一方、韓国については、韓米FTAの改正交渉において譲歩を行うことで、鉄鋼などへの高関税賦課を回避した。アメリカは、輸入される自動車への関税も検討しており、今後、関税引き上げの直撃弾を受ける可能性が残っているものの、現在のところ韓国の製品はアメリカから高関税をかけられていない。韓国は直接的には、アメリカ発の貿易摩擦に巻き込まれていないのであるが、この貿易摩擦は対岸の火事ではなく、この先もエスカレートしていけば、韓国経済は深刻なダメージを受ける可能性が高い。

韓国経済は対外依存度が高い。対外依存度を客観的に測る数値としては、国内で生産された付加価値のうち国外で最終的に需要される割合があり、これは、2013年からOECDとWTOが共同で作成し公表を始めたTiVA(Trade in Value-Added)指標で把握できる。

TiVA指標の最新値である2011年の数値を見ると、韓国で生産された付加価値の33%が国外で最終的に需要されている。日本、アメリカ、EUの数値は、それぞれ10%台であることを勘案すれば、韓国経済の対外依存度は相当程度高いことがわかる。さらに国内で生産されたGDPがどの国で最終的に需要されているのかもTiVA指標から得ることができる。韓国で生産された付加価値は、中国で19%、アメリカで17%が需要されており、EUの12%、日本の8%を引き離している。つまり、韓国経済は中国とアメリカに依存していることがわかる。

韓国の景気は中国とアメリカの景気に影響を受けることを意味しているが、これは近年の経験から証明されている。韓国の景気はアメリカの景気が良くなった2013年頃から回復しているが力強さは感じられなかった。これは中国の景気が息切れしていたからである。しかし2016年に入り中国の景気に回復の動きが出てきたことから、韓国経済はアメリカと中国に引っ張られるかたちで景気に力強さが戻ってきた。

2つのエンジンが止まる

しかし米中間の貿易摩擦は、韓国の力強い景気に暗い影を落とし始めている。実体経済にはまだ影響は出ていない。中国やアメリカ向けの輸出は共に好調であり、中国向け輸出の前年同月比は2018年に入っても2桁の増加が続いている。アメリカ向けの輸出は増減を繰り返す展開となっているが、5月は2桁の増加であった。これは中国とアメリカの景気がまだ減速していないから当然であるといえる。

しかし最近は気になる動きも出ている。為替レートは、景気の力強さを反映してウォン高基調で推移していたが、6月に入りウォン安に転じた。株価指数も下落が目立つようになってきた。金融当局の分析によれば、株価指数については米中の貿易摩擦に対する不安感により外国人による韓国株の売越額が拡大したため下落した。また為替については、米中貿易摩擦に関連した不安心理によりウォン安となっていると分析されている。

米中間の貿易摩擦がエスカレートすれば、中国の景気に影響が出ると考えられる。中国はインフラ投資が一服して今後の景気に不透明感が出ているなか、アメリカ向け輸出が減少すれば景気が腰折れる可能性がある。アメリカの景気については貿易摩擦からの直接の影響は小さいとみられるが、中国の景気が失速すれば、韓国の景気も2つのうちの1つのエンジンが不調になることから悪影響を免れない。またアメリカは利上げにより景気の軟着陸を図っているが、過度にブレーキが利きすぎれば景気が後退する可能性も否定できない。そうなれば韓国経済を支えてきた2つのエンジンが止まることとなり、景気が一気に後退局面に入る可能性が高まる。

このように米中間の貿易摩擦は韓国にとって対岸の火事ではなく、まさに自国経済も燃え上がるリスクをはらんでいる。さらには、先に述べたように、アメリカが韓国からの自動車輸入に高関税をかける可能性も排除できず、この場合も韓国の輸出、ひいては景気に悪影響を及ぼす。いずれにせよ、今後の韓国景気はトランプ大統領の動きに翻弄されそうであるが、中間選挙を前に過激さを増すと考えられるアメリカの通商政策を勘案すれば、良い方向には向かないことが予想される。しばらくの間、韓国景気は嵐に翻弄されることになりそうである。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)