NATO首脳会議を機にトランプ大統領がドイツ批判を強めている。NATOに対する分担金が少ないというだけではない。ロシアとの間で進めている海底パイプライン計画「ノルドストリーム2」をやり玉に挙げて、「(ドイツは)ロシアの捕虜のようなものだ」(日経新聞)と強烈に批判した。貿易問題でトランプ大統領を批判するメルケル首相はどうしたわけか、今回は直接的な反論を控えている。こうした状態を称して日経新聞は「トランプ氏にも三分の理」と見出しを立てた。この記事は米国とドイツの思惑を抉り出した好記事だ。ドイツはロシアのクリミア併合に反対して経済制裁をリードした対ロシア最強硬派だ。そのドイツが原発の廃止など国内的なエネルギー事情があるとはいえ、ロシアから天然ガスを輸入しようとしている。はたから見れば表で喧嘩しながら裏で手を握っているように見える。
トランプ大統領の発想は多分同じだろう。「大金をロシアに払っている連中を我々がロシアから守らなければいけないのは道理に合わない」(同)と、ドイツに対して分担金の大幅引き上げを要求した。話はそれるが、ドイツはEUの中で財政均衡政策を強力に推進してきた。これによってギリシャやイタリア、スペインといった南部の国々で政情が不安定化した。反移民や右翼の台頭を招いたのもある意味ではドイツが進める財政の均衡化政策が一因になっている。そうした中でドイツは強い競争力を背景に輸出を増やし、統一通貨がユーロの安値安定によって経常収支の黒字化を実現した。EUの1強がNATOの分担金を低く抑え、ロシアを批判しながらロシアから莫大な天然ガスを輸入する、こうしたやり方をトランプ大統領はやり玉に挙げたわけだ。
返す刀でトランプ氏は英国のメイ首相が打ちだしたソフトブレグジットを批判する。「英国がそうした(穏健な)離脱で合意すれば、われわれは英国ではなくEUとやり取りすることになるため、恐らく取引をだめにするだろう」(ロイター)と主張する。これを見る限りトランプ氏は英国保守党の離脱最強硬派に近い。既成のルールを破壊して新しいルールを作るという創造的破壊派といっていいだろう。国際政治を部分的に取り出しても無意味だ。さりとて全体的な整合性を図ろうとすれば、あちらこちらに矛盾が生じる。トランプ氏を破壊主義者として批判するのは簡単だと思う。だが、ドイツに対する批判のように「トランプ氏にも三分の理」がある。NATOに生じた亀裂はドイツの終わりを意味するのだろうか?ロシアワールドカップでドイツは、はじめて予選リーグを突破できずに敗退した。何かを暗示しているような気がする。