水産庁はきのう、9月にブラジルで開かれる国際捕鯨員会(IWC)総会に日本が提案する議案を正式に公表した。一つ目が総会改革で現在4分の3の賛成が必要な重要議案の採決について、過半数の賛成があれば成立する方式に変更するよう提案する。2つ目が商業捕鯨の再開。ミンククジラなど資源の豊富な一部の鯨種について商業捕鯨の再開を求める。IWCの加盟国は現在87カ国。捕鯨賛成派が39カ国で反対派が48カ国。賛成派も反対派も現時点では4分の3に達しておらず、重要議案は何一つ可決できない状態が続いている。今総会の議長はIWC日本代表の森下丈二氏(東京海洋大学教授)。この機会に日本はまず「Agree to Disagrer」、つまり何も合意できない現在の状態について加盟国の合意を得ることから始める。

IWCは1946年に締結された国際捕鯨取締条約(ICRW)に基づいて設立された。日本は1951年に加盟。商業捕鯨の禁止は1972年の国連人間環境会議に溯るが、IWCが10年間のモラトリアム(一時的な捕鯨の停止)を決めたのは1982年。このあと賛成派、反対派の双方が宗教戦争に例えられるような妥協なき自己主張を繰り返してきた。この間日本は調査捕鯨に活路を求めてきた。調査捕鯨を除けば現在クジラの捕獲は原則的に禁止されている。その結果、クジラ資源は急速に回復した。一部には海洋生物最大のクジラが増えたことによって、海の生態系が破壊され始めているという説を唱える向きもある。とはいえ、IWCの現状では商業捕鯨の完全な禁止も、モラトリアムの解除もできない。そこで議長国・日本が主張しているのが「Agree to Disagrer」だ。

合意できないという現状をまず認め、合意できるようにするために総会の採決方式を変える提案をする。もちろん無条件に採決方式を変更しようとしても、「賛成国の提案には絶対反対」といった反対国がいる限り4分の3を上回る賛成は得られない。そこで総会の下部機関である常任委員会が賛成した場合に限り過半数で採択するという条件付きだ。反対国の中には「クジラを救うためなら自分の命を犠牲にしてもいい」(森下氏)という人までいるという。捕鯨論争は今や神学論争をこえて反対することに価値を見出す“妥協なき闘争”の様相を呈している。八百万の神を旨とし、妥協することに価値を見出す日本。不毛な捕鯨論争に終止符を打てるか、世界が注目する。