先週ワシントンで行われた日米2国間の通商協議は、これといった進展もなく9月に開催されるG20首脳会議でのトップ会談に決着が先送りされた。もっともここで決着するかどうかもわからない。トランプ大統領の狙いは11月の中間選挙だから、日本側が大幅に譲歩すれば決着は早まる。そうでない限り再度先送りされる可能性もある。とはいえ、日本としては決着が延びれば延びるほど米国の要求はかさあげされると読むだろう。だから日本は早期決着を望む。決着はトランプ大統領の腹ひとつ。日本はあくまで受け身だ。こうした点を捉えて一部メディアには「日本に焦燥感」(産経ニュース)と書いた。当たらずと雖も遠からずだが、日本はすでに敗北している。
日米の通商協議はFFRと呼ばれている。自由(Free)、公正(Fair)、相互的(Reciprocal)の略だ。自由(Free)、公正(Fair)はわかるが相互的(Reciprocal)とはどういうことだろう。通商交渉は互恵主義に基づいている。相互に利益があることが大事だ。最近流に言えばWin-Win の関係ということだ。互恵主義は英語でReciprocity。相互的というのは要するに互恵主義に立脚して交渉するということになる。2国間に互恵が必要なことは論を待たない。相互に対等の恩恵が伴わなければ交渉は成り立たない。だが、多国間の通商条約と互恵主義はどういう関係になるのだろうか。日本は太平洋を挟んだ10カ国とTPPを締結している。牛肉に限って言えば通常の関税は38.5%だが、TPPが発効して9年目には9%に下がる。
米国は2国間協議でTPPを上回る関税の引き下げを要求してくるはずだ。となれば2国間協定と多国間協定の関係はどうなるのか。日米交渉がReciprocityではなくReciprocalといっていることの意味がここにある。互恵ではないが互恵的にやろうということだ。ここに米国がTPPを上回る関税の引き下げを要求する余地が生まれる。もちろんTPPを下回る関税の引き下げに止めると日本が主張することも可能だ。だが、現実にはそれはない。日米の力関係というか、安全保障を米国に全面的に依存している以上それは許されない。ということは最初から日米のFFRでは米国に優位性があるということだ。交渉条件は最初から平等ではない。日本は交渉名称にReciprocityではなくReciprocalと入れることを容認した段階で負けている。