イタリア北部の都市ジェノバで昨日、高速道路に掛る高架橋の一部が崩落した。毎日新聞によると「橋と共に20台近くの車両が約50メートル下に落下したとみられ、多数の死傷者が出た。ANSA通信は伊消防当局の情報として35人が死亡したと報じている」という。ロイターによると高架橋は1960年代後半に建設したもので、トニネッリ運輸相は保守点検が行われていなかった可能性があると指摘しているようだ。また、読売新聞によると「スペイン北西部の港湾都市ビーゴでは12日深夜、海沿いの遊歩道が崩落し、コンサートを聴きに集まっていた客ら377人が海に転落するなどして負傷した。うち9人が重傷」という。崩落したのは長さ約30メートル、幅約10メートルの木造の遊歩道で、1990年代に建設されたものだという。

ロイターによると、イタリアのサルビーニ内相は今回の事故を受けて「このような惨事は受け入れがたい」と発言、責任の所在を明らかにするつもりだと述べた。この記事をみて個人的に思ったのはEUの緊縮財政のことである。マーストリスト条約の発効とともにEUが発足したのは1993年11月1日。問題の高架橋の建設は1960年代とあるからEU創設よりもだいぶ前のことであり、EUの緊縮財政に結びつけるのは行き過ぎかもしれない。だが、EUの緊縮財政路線によって老朽化した建築物の保守・点検に資金が回らなくなったことも事実で、橋の崩落の責任の半分は緊縮財政にあるといってもいいだろう。EU加盟の多くの国がいまイタリアと似たり寄ったりの状況に陥っていると言っても過言ではない。

近代史を紐解いてみれば先進国と言われる国々は橋をかけたりトンネルを掘ったり、高速道路を建設したり、いわゆる公共事業によって経済を発展させてきた。その結果として橋や高速道路がどの国にも張り巡らされている。そしてどの国も厖大な財政赤字を抱えるようになった。こうなると財政の健全化は有権者の支持を得やすい。こうしてEUでは財政赤字をGDPの3%以下に抑えることを義務付けた緊縮予算が主流になったのである。かくして厖大な予算をつぎ込んだ橋や道路の保守・点検がおろそかにされ、ジェノバのような悲劇があちらこちらで起こるようになった。橋や道路はつくった以上保守・点検を持続的、継続的にしないと経年劣化して脆くなる。結果的に今回のような悲劇が起こる。財政赤字を減らすことは必要だが、それで人命が救われることはない。