安倍晋三首相がきのう正式に自民党の総裁選への出馬を表明した。すでに出馬を表明している石破茂氏と違って、記者会見は行わなかった。視察先の鹿児島で記者のぶら下がり取材の際に出馬を表明した。これによって9月の自民党総裁選は、石破氏と安倍首相の一騎打ちになるとみられている。安倍首相はぶら下がりで「平成の、その先の時代に向けて、新たな国造りを進める先頭に立つ決意だ」と述べ、「どのような国造りをしていくかが争点だ。骨太の議論をしていきたい」と語った。出馬表明の形式はどのようなものであっても構わない。石破氏が立候補を表明した会見で「公平、公正な政治」を第一に掲げたように安倍首相も「どのような国づくりをしていくかが焦点」と評論家のようの口ぶりでお茶を濁す。政策はどこにもない。

安倍首相が鹿児島で立候補表明を行ったのは国体対委員長である森山裕氏のお膝元という理由だ。サンケイ新聞によると森山氏は国体委員長としてモリカケ問題をはじめとした数々の不祥事対応や、「反安倍」に傾きそうだった石原派(近未来政治研究会、12人)を首相支持でまとめるなど、安倍首相の評価は高いのだという。同紙は「返礼の意味も込めて『平成の薩長同盟』を演出した」と解説する。折からきのうはNHK大河ドラマ「西郷どん」は「薩長同盟」の締結シーンだ。「しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」(サンケイ新聞)。政治だから演出を重視するのはある意味で当然だろう。だがそれも政策という裏付けがあっての話だ。政策なき演出はポピュリズムだろう。

この週末、国際社会は懸念材料で揺れた。トランプ大統領が国務長官の訪朝にストップをかけた。北朝鮮に対する揺さぶりだ。返す刀で中国を非核化に消極的と批判、ポンペオ国務長官の訪朝は米中の貿易摩擦が解決したあとだとツイートした。イランでは反米保守強硬派が勢いを増している。トルコは依然として通貨危機を脱していない。米国とメキシコの貿易戦争に収束の兆しが見えるものの、世界経済にはピークアウトの影が忍び寄っている。この時期の総裁選である。事実上日本の首相を決める選挙でもある。今回の総裁選で不可欠な条件は政策論争である。石破氏は「公平、公正な政治」という立候補表明会見で強調したスローガンを封印した。それはそれでいいことだ。公開討論があろうがなかろうが、もっと政策で攻めるべきだ。そうしない限り何のための総裁選挙なのか、有権者ではない一般国民の関心は引き付けられない。