中西宏明経団連会長(日立製作所会長)が学生の就職活動に関する自主ルールともいうべき指針を、2021年春の入社組から撤廃する可能性に言及した。3日に行われた定例記者会見で明らかにした。初めて聞く者にとっては唐突感があるが、会長はおそらくだいぶ前から考えていたのだろう。指針の見直しとか再検討ではない。オリンピック・パラリンピックの最中に就職活動をしなければならない大学生が対象である。廃止だから時期を決めれば済むだけの話である。議論する必要もない。だが、中西会長の発言を受けて世の中の議論は盛り上がっている。賛成派もいれば反対派もいる。賛否両論入り乱れている。議論の口火を切ったという点で中西発言はタイムリーだった。

この発言を受けて安倍総理は現行制度をきちっと守ってほしいと中西会長に批判的な発言をした。しかし、きのう菅官房長官は「現行ルールは19年就活組まで適用されることが決まっている。そのルールはきちっと守ってほしいという意味で、中西発言を否定したわけではい」と首相発言を軌道修正した。世耕経済産業大臣は「議論の口火を切ったことは歓迎する」と、是非論に踏み込んではいないものの撤廃について否定的な発言はしなかった。NHKはニュースで学生の反応を拾っていたが、賛否両論に分かれていた。賛成派は通年採用の方が今の時代にあっているとし、反対派は就職活動の公平性が阻害されるのではと心配していた。有識者を代表して労働問題に詳しい日本総研の山田氏は、「この辺で一度抜本的に議論をしてみるという点ではいいことではないか」と前向きに評価している。

総裁選に立候補した石破氏は撤廃に慎重で、麻生財務大臣は「一考に値する」と評価。野党が即座に反応しないのが気になるが、政府内や政治家の意見も分かれているようだ。個人的には「撤廃してもいい」と思っている。日本人は何でもルールにしないと収まらない。ある意味ではマニュアルがあると安心するマニュアル民族でもある。就活の開始は3月で、企業の面接は6月に解禁。だから極暑のなかで学生は汗をかきながら就活をする。誰も文句は言わない。ルールだから仕方ない。その裏でルールに縛られない外国企業は優秀な学生を勧誘して社員にする。学生は学生で実力を身につけるより、ルールによって守られることをよしとする。就職活動によって勉強に集中できなくなるというのは学生や大学側の甘えのような気がする。ルールを撤廃しても採用人数が減るわけではない。一度企業も学生も、ルールなき実力の世界で戦ってみたらいいと思う。