米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は6日、貿易摩擦に関連してトランプ大統領の次の標的は日本だとの記事を掲載した。日本のメディアがこれを転電している。例えば時事通信。Web版に「トランプ氏、対日赤字標的か=『蜜月』終わりも-米紙」と伝えている。中身をみるとトランプ氏は同紙編集者との電話で「『日本がどれだけ(米国に代償を)支払わなければならないかを伝えた途端、(良好な関係は)終わる』と述べ、厳しい態度で臨む姿勢をにじませたという」とある。これだけ読むとトランプ氏の対日姿勢は対中国、対カナダ、対EUなどと同様に極めて厳しいもののように見える。だが、一皮むくとこの事実認識は怪しくなる。トランプ流にいえばフェイクの可能性もある。

 

ちょっと前にワシントン・ポスト紙はトランプ大統領が首脳会談の場で「真珠湾」を持ち出し、貿易赤字に関連して日本を激しく非難したと伝えていた。これに対して産経新聞は4日、「真珠湾への言及があったのは4月18日」、場所もゴルフ場。日本を攻撃するためではなく「日本は、米国をたたきのめすこともある強い国」と日本を称賛する文脈だったと書いている。産経新聞のニュースソースは「政府高官」となっている。この件に関しては朝日新聞が8月29日に一連の流れを紹介したあと、カーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上級研究員のコメント(WPに掲載されたもの)を紹介している。同氏は「トランプ氏は最初の頃は安倍氏の指導で貴重なものを得たが、トランプ氏にとって今の安倍氏は、よく頼み事をするものの、トランプ氏が欲しいものを与えない人物とみているのだろう」と語ったとある。「みているのだろう」これはあくまでも推測である。

 

産経新聞は、一連の報道を受けて石破氏が講演で「友情と国益は別だ」とくぎを刺したこと、国民民主党の玉木雄一郎共同代表がツイッターで「良好に見える安倍トランプ関係だが冷却しているという」とつぶやいたことを紹介している。さらに「首相の訴えの信ぴょう性が揺らぐ」(時事通信)、「赤字の削減を目指し圧力を強める狙いがありそうだ」(共同通信)など主要なメディアも追随している。WSJがトランプ氏に近い右寄りの新聞であること、トランプ氏の意向を代弁している可能性があることは、しっかりと押さえておく必要がある。だが、いずれのニュースも虚偽とは言わないが伝聞に基づく推測でしかない。この種のニュースと称するものが世の中には溢れかえっている。それが一段と真実を見えにくくしている。それだけではない。まるで真実であるかのように世の中に流通する。この構造にメディアの大きな問題がある。