朝鮮半島の非核化を目指す南北首脳会談の共同宣言が昨日発表された。それによると両首脳は「北朝鮮は査察官立ち会いの下でミサイル試験場の恒久的な解体で合意」したほか、非核化の手法で「初めて」合意した。また、金委員長はソウルを「近い将来」、可能なら年内に訪問することでも合意した。首脳会談が始まる前は韓国の文在寅大統領大統領が、非核化の具体化に向けて金委員長をどこまで説得できるかが焦点との見方が多かった。結果はほぼゼロ回答だったが、トランプ大統領がツイッターで、非核化に向けた追加措置に同意した北朝鮮の金委員長を称賛、こう着状態にある交渉が再び軌道に乗る可能性あると示唆した。文大統領も金委員長を絶賛している。
毎度のことながらメディアも首脳会談礼賛のオンパレードである。朝鮮半島の非核化に水を差すつもりはないが、いいことだけが前面に躍り出る報道ぶりに多少辟易とする。「査察官立ち会いの下でミサイル試験場の恒久的な解体」といった表現の裏で北朝鮮は、「米国が北朝鮮の行動に報いる措置を講じれば、寧辺の核実験場を廃棄する追加措置の用意がある」(共同声明)と言っているにすぎない。これまでと何も変わっていない。にもかかわらずトランプ大統領は金委員長が追加措置に同意したかのごとく金委員長を礼賛、ポンペオ国務長官も共同宣言を歓迎した上で、ニューヨークでの外相会談を呼びかけている。南北首脳会談を機に米朝会談が水面下で再び始まる。何度も通った道だ。そして米朝の主張が食い違い非核化が遠のく。そうこうするうちに中間選挙が終了し、下がり気味の文大統領の支持率が持ち直す。
北朝鮮出身の文大統領が前のめりになりすぎているのか、トランプ大統領の見え透いた礼賛にそれなりの意味があるのかよくわからない。素人的に見れば金委員長の巧妙な韓国取り込み作戦と、いかにも親しげな南北首脳をめぐる演出のうまさだけが際立っている。文大統領が本当に米国と北朝鮮の間を取り持つのだとすれば、非核化に向けて金委員長を説得する必要があると思うのだが、伝えられている共同宣言からその痕跡をうかがい知ることはできない。国際世論が期待する北朝鮮の非核化は、金王朝が独裁的に支配する体制を崩壊させ、北朝鮮にいる2500万人の人民を解放することである。目の前で繰り返される非核化交渉は米国が11月の中間選挙、韓国は経済の再建、北朝鮮は言わずと知れた金王朝の支配継続。三者とも国民や人民を無視して、それぞれの体制擁護を目指しているにすぎない。