トランプ政権が昨日カナダとのNAFTA(北米自由貿易協定)修正で正式合意したと発表した。これでNAFTAは米国・メキシコ・カナダ3カ国による新たな貿易協定に生まれ変わる。これはトランプ大統領による「米国第一主義」の勝利であり、グローバリズムの終焉の始まりかもしれない。この評価と影響についてはしばらく様子を見ないとわからないだろう。個人的には世界的に貿易は縮小し、世界景気は勢いをなくしていくような気がする。トランプ大統領は11月の中間選挙を前に「歴史的な勝利」と宣伝するが、果たしてどうだろうか。米国自身がグローバリズムによって多大な恩恵に浴してきた。新しい貿易協定は一見米国に有利なように見える。だが、2、3年後には新協定による弊害を米国が最も多く受けるのではないか。目先の利益に目がくらむと決していいことはない。

 

トランプ大統領が2016年の大統領選挙以来一貫してNAFTAを批判してきたことに一分の理がないとは思わない。NAFTAによって実現した関税ゼロを利用して、世界中のメーカーがカナダとメキシコに工場を建設して対米輸出を増やしてきた。その弊害が米国の労働者や企業に及んでいたことは確かだ。その象徴が自動車ということになる。ここに目をつけてトランプ大統領が国民の支持を勝ち取ったことは、同大統領に先見の明があったということであり、NAFTA条約の見直しは「米国第一主義」の勝利と言っていいだろう。問題はこれによってグローバリズムが終焉に向かうかどうかだ。グローバリズムに問題なしとはしない。米中の貿易摩擦はコストの低い中国とコストの高い米国との間で、起こるべくして起こった矛盾である。NAFTAに対するトランプ大統領の不満も質は同じだ。

 

問題はグローバリズムに内在している矛盾を保護主義によって解決しようとしていることである。日本をはじめ中国やEUは自由貿易主義を掲げて保護主義に対抗しようとしている。だが、矛盾を解決する手段として自由貿易を掲げるだけではグローバリズムに内在している矛盾は解決しないだろう。EUと英国の関係も同じだ。しつこいと言われるかもしれないが、NAFTAからUSMCAへの転換はトランプ大統領が掲げた保護主義の勝利である。だが、この勝利の先行きは必ずしも明るくはない。それどころか世界貿易の縮小という暗いイメージが付きまとう。いま必要なのはグローバリズムに内在する矛盾を解決する手段、方法である。自由貿易を掲げる陣営がこの矛盾を解決すためには数量規制に代わる何か、共存共栄のための具体的なXの提示が必要だろう。