昨日来のトップニュースはトヨタとソフトバンクの提携だろう。世界のトップ自動車メーカーと異能の経営者・孫正義氏のソフトバンクが提携して新会社を設立するという。ターゲットにするのはモビリティ分野である。モビリチィといえばライドシェア(相乗り)やカーシェア(共有)、配車サービス、自動運転など自動車に関連した新たなビジネス分野を想定するのが一般的だ。だが、実態はもっと広いと思う。トヨタが開発中の「eパレット」が実用化すれば、これはコンビニにもなるし移動図書館にもなる。オフィスとしての使い方もあるかもしれない。野球場に向かう途中に「eスポーツ」の競技場として使うことも可能だろう。個人的には「eパレット」そのものをVR(バーチャルリアリティ)化して日本列島縦断旅行ツアーを仕組んだらどうだろうかと思う。

 

トヨタとソフトバンクの提携にはそんなワクワク感が付きまとう。もちろん現実はそんなに簡単ではないことは承知している。とはいえ、今回の発表は世の中の急激な変化に世間が追いついてきたことの証のような気がする。豊田章夫社長は昨日の会見で、20年前に孫氏から自動車のネット販売を一緒にやらないかと提案されて断った話を紹介している。20年前といえばトヨタはすでに押しも押されもしない自動車のトップメーカーだった。ソフトバンクはようやく急成長を始めた頃ではないか。今思えば孫氏はすでに20年前から今日あることを予想していたのだろう。世界のトップメーカーであるトヨタの社長が孫氏の発想に追いついたのである。そう考えるとこの提携は、日本の企業経営者がようやく時代の最先端に躍り出たことを意味しているのかもしれない。

 

孫氏はかつて「シンギュラリティによってあらゆるものが再定義を余儀なくされる」と言った。20年前にトヨタが断ったソフトバンクとの関係は、新会社設立という新しい関係に発展した。そして気がつけばウーバーやグラブ、滴滴出行などトヨタが最近出資した配車サービスの会社の筆頭株主はいずれもソフトバンクである。日経新聞によると豊田社長は社内で常々「事業を転換しないと生き残れない瀬戸際。だがトヨタは過去の成功体験が大きく、このままだと5年、10年後に会社がなくなる」と繰り返しているという。豊田社長の認識は日本の経営者としては珍しいほど正鵠を射ている。10年後、20年後に日本も世界も現在の姿にとどまっていないだろう。激しく移り変わる世の中のすスピードに負けないように、走りながら考えるしかない時代がすでに始まっている。トヨタとソフトバンクの提携はそのことを示しているような気がする。