新聞全紙がほぼ同じ見解とは…

いわゆる「徴用工」判決が韓国最高裁で出された。ご承知の通り、日本企業に損害賠償を命じた確定判決だ(徴用工の歴史や問題点などについてはここでは詳しく論じない。各々で調べていただきたい)。今後も複数の日本企業に対して同様の判決が下される可能性があるが、これに対して、日本政府はどのような手順を踏んで対応すべきなのか。今回はこのことについて論じたい。

まず、今回の判決について、日本の新聞各紙の社説はどう反応しているのだろうか。一覧で見ていこう。

<朝日>徴用工裁判 蓄積を無にせぬ対応をhttps://www.asahi.com/articles/DA3S13747548.html

<読売>「徴用工」判決 日韓協定に反する賠償命令だhttps://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181030-OYT1T50161.html

<毎日>韓国最高裁の徴用工判決 条約の一方的な解釈変更http://mainichi.jp/articles/20181031/ddm/005/070/128000c

<日経>日韓関係の根幹を揺るがす元徴用工判決https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37149270Q8A031C1EA1000/

<産経>「徴用工」賠償命令 抗議だけでは済まされぬhttps://www.sankei.com/column/news/181031/clm1810310002-n1.html

左派紙である朝日新聞も毎日新聞も含めて、珍しく各紙ともに、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決された問題であること、2005年の盧武鉉(ノムヒョン)政権で、「徴用工」問題は請求権協定に基づいて、日本が拠出した3億ドルで解決としていることも言及されている。本件は、全紙が「おかしさ」を指摘するほどに、酷くて非常識な判決であることが分かる。

まず、今回の事例を「徴用工」と指すことがそもそも正しくない。国家総動員法に基づく朝鮮半島での戦時労働動員については、①1939~41年は民間企業による「募集」、②1942~44年9月は、朝鮮総督府による「官斡旋」、③1944年9月~1945年3月は国民徴収令による「徴用」である。

今回の韓国最高裁の事例は①について下されたものであるが、これは民間企業の「募集」に応じたものであり、厳密な意味での「徴用」ではない。異論や議論があることも承知しているが、しかし、これは日本政府の見解でもある。

このいわゆる「徴用工」判決に対し、日本は戦後何度も韓国と対話し、経済援助を行う代わりに、韓国は本問題について賠償請求しない、と約束したものだ。加えて日本は韓国に残した「資産」を放棄したので、「資産を取り返せ」「韓国に経済制裁をせよ」「対韓国への禁輸を」…といった意見が出てきている。なかには「韓国と断交せよ」との強硬な声も聞こえてくるほどだ。

確かに、最近の韓国の「傍若無人ぶり」は目に余る。日本の自衛艦旗が掲げた「旭日旗」に言いがかりをつけ、海上自衛隊の護衛艦に国際観艦式(10月10~14日)での掲揚自粛を求めてきたのもそのひとつだし、10月22日には、韓国の国会議員らが日本固有の領土である島根県・竹島に「不法上陸」した。

慰安婦問題についても、日本政府が日韓合意に基づき10億円を拠出し、韓国で設立された「和解・癒やし財団」に対して、韓国側が解散方針を伝えたといわれている。

こうした状況下において、「日韓断交」と主張する一部の人々の気持ちも、まあわからないではないが、国家間の問題は感情論で語るのではなく、もう少し緻密なロジックを組み立てて進めていかなければならない。そうでなければ、最終的に国際社会を巻き込んでの議論に負けるおそれもあるからだ。ここは冷静に、断固として、毅然たる措置を取ることを考えることが必要だ。

冷静に、ロジカルに

まず、1965年の日韓請求権・経済協力協定をみてみよう。この協定では、1条に日本から韓国への経済協力が書かれ、2条で「日韓両国とその国民の財産、権利及び利益並びに請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認する」と書かれている(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/A-S40-293_1.pdf)。

ここで問題となるのが、個人の請求権についてどこまで及ぶのか、ということだ。実は、日本政府も、「個人の請求権が消滅した」とは言っていない。これは過去の国会答弁で明らかである。そこで、韓国最高裁は、その点をついて、「不法行為に関する個人の請求権は、日韓請求権・経済協力協定の範囲に含まれていない」としているようだ。

さて、日韓請求権・経済協力協定の3条では、協定の解釈に関する紛争は、まず外交上解決する、とされている。それができない場合には、仲裁委員会を作り付託する、とされている。協定には書かれていないが、仲裁委員会を作らずに、国際的な司法の場で議論することもありえるだろう。

いずれにしても、両国間の協議を国際社会の目に晒す覚悟で、日本は対応しなければいけない。その場合、冒頭に述べたような「素朴な説明」では、とても国際的な納得を得られないだろう。オープンな議論で必要なのは、国際社会を説得できるロジカルな主張と反論だ。

では、ロジカルな主張とはどのようなものが考えられるだろうか。

ひとこと言えばいい

まず、韓国国民の個人の請求権はあるとしても、その請求対象は日本企業ではなく、韓国政府が対象になるべきだ。なぜならば、それが「日韓請求権・経済協力協定」の趣旨であり、そのために日本政府は韓国政府に巨額の経済協力を行ったからだ。もし、韓国国内の訴訟対象にならないのであれば、それは「やらずぶったくり」である。

いずれにしても日本企業を相手方に訴えるのは不合理で、現に(いまの大統領の文在寅氏も深く関与していた)盧政権では国内法を整備して、元徴用工らに補償をした実績もある。

具体的には、当時の盧政権は、韓国国民の個人の請求権に対して、政府内組織を作り、「徴用工」問題は解決済みとした。さらに、3億ドルの日本政府からの韓国政府への無償経済協力は、その問題対処のために包括的に考慮されているとし、韓国政府には「徴用工」を支援する「道義的な責任がある」とまで言っている。

このことから、いまの韓国政府に言うべきことは、「文大統領も深く関わった盧政権と同じことをせよ」のひと言である。

そのために、当時の韓国国内法を改正して、いまの事態に対応すればいいだけだ。加えて、このたびの韓国最高裁判決を無効化するために、日本企業が賠償を支払わなかった場合でも、その企業の財産差し押さえ等の行政執行を、韓国政府は停止すべきだ。

最高裁が判決を出したとはいえ、それに対して、このように「当たり前のこと」をおこなうことが韓国政府の責任である。これは同時に、日韓関係に影響を及ぼさないためにも必要なことだ。

まずは外交措置を採り、次に仲裁委員会を作り、場合によっては国際司法の場で議論する、という流れを作るべきだろう。その中で、「最悪の場合には断交も検討する」という選択肢を念頭に置きながら、日本は手順をきっちり踏むべきだ。それが国際社会に誇れる毅然たる措置である。

それが外交というものだ

さて、河野外務大臣はこの「徴用工」判決について、3日、「1965年の国交正常化で、日本が経済協力として一括して韓国政府に支払い、国民一人一人の補償は韓国政府が責任を持つと取り決めた」とし、「今回の判決はこの取り決めに完全に違反するもので、日本としては受け入れられない。韓国にすべて必要なお金を出したので、韓国政府が責任を持って補償を行うべきだ」と述べた。

これは、冷静な第一歩である。同時に外務省は、韓国側の主張が不条理なものであることを広く世界に訴えるべきだ。この問題は、日韓両国だけの問題とはせずに、国際的な場で広くプロパガンダを行うべきだ。それが外交というものだ。

今のところ、韓国政府はこの最高裁判決について沈黙を保っている。ただし、沈黙のままで許してはいけない。国際社会に引きずり出して議論をし、決着をつける方策を日本政府も考えておいたほうがいい。

最近の韓国は、南北首脳会談の余熱に浮かれて舞い上がっているかのようだ。いまや、北朝鮮もアメリカも韓国の手を借りないで直接交渉ができるので、韓国から「旨味」を吸い出したい北朝鮮に利用している、ということに気がつかないのだろうか。

なお、一部の新聞記者が、日本政府の韓国政府への抗議について「三権分立を無視した行為だ」などと書いていたが、これは国際社会の常識を欠いた指摘だ。日韓両政府が結んだ国際条約を無視した判決は許されないし、韓国に抗議するには外交チャンネルを使うしかないのだから、抗議は当然である。

三権分立が云々というが、これはあくまで韓国国内の問題なのだから、韓国政府が解決しなければならないことも自明なのだ。