【パリ時事】トランプ米政権が中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する意向を示したことを受け、欧州諸国で米国に対する不信感が募っている。マクロン仏大統領は「(INF条約が破棄されれば)欧州が主な犠牲者になる」と懸念を表明。一方、トランプ大統領は米国抜きで「欧州軍」創設を模索する動きを強くけん制した。米国と欧州の同盟国の間では安全保障問題が火種となり、亀裂がかつてなく深まっている。

 「中国とロシアだけでなく、米国からも自分たちを守らなければならない」。マクロン氏は6日に放送された仏ラジオ局とのインタビューでこう訴えた。背景には、欧州安保の基盤だった北大西洋条約機構(NATO)の結束が揺らぎ始めたという危機感がある。

トランプ氏は、加盟国に対する攻撃を全加盟国への攻撃と見なすNATO条約の「集団防衛」規定を疑問視してきた。7月のNATO首脳会議では、加盟国の防衛支出が少な過ぎると怒りをぶちまけ、脱退も示唆。さらに10月、ロシアによる違反などを理由に「(INF条約を)破棄する」と明言した。

1987年に当時の米ソが調印したINF条約は、欧州諸国の脅威となっていたソ連の地上配備型短・中距離ミサイルを取り除くことが狙いだった。条約が無効になればロシアのミサイル配備を制約できず、欧州にとっての脅威復活につながりかねない。

また、米政府関係者によれば、トランプ政権はINF条約破棄の意向を同盟国に事前に伝えていなかった。「欧州諸国の指導者にすれば、こうしたことが米国の真意に疑いの目を向ける要因になっている」と同関係者は指摘する。

トランプ氏は中ロ両国と並び、米国を「敵視」したマクロン氏の発言に対し、「非常に侮辱的だ」と不快感をあらわにした。だが、フランスが提唱する欧州軍には英独など9カ国が賛同。マクロン氏の危機感が広く共有されている証拠とも言える。米国離れが進行し、欧州軍創設が現実味を帯びてくれば、NATO瓦解(がかい)の前兆にもなりかねない。