[ロンドン 14日 ロイター] – 英政府は臨時閣議で、欧州連合(EU)からの離脱協定草案を承認した。メイ英首相は次に、同草案に懐疑的な見方をする議会の承認を取り付けなければならない。

英議会の承認プロセスはどのようなものか。

●メイ首相に求められていることは何か

閣議承認を得た離脱協定草案にEU首脳が同意するのを待って、メイ首相は英議会に、離脱協定草案と英国とEUの将来の関係を定めた協定のアウトラインを提出する。

議会では数日間にわたり討論が行われる見通しで、最後に下院が採決を行う。

●採決はどのように行われるか

討論や採決の方法はまだ決まっていない。結果を左右しかねないだけに、方法については大きく主張が分かれている。

閣僚は、協定草案の議会承認は明快な形で出される必要があるとの立場だ。さもなければ、離脱協定の批准に必要な法的要件を満たせなくなる可能性があると主張している。

離脱を巡りメイ首相に反対する議員らは、2度目の国民投票実施やEUの関税同盟残留など、別の戦略を選ぶ案に議会の過半数の支持があることを示す場として討論を利用したい考えだ。

投票は複数回行われる可能性がある。法的拘束力はないものの、もしこうした「他の選択肢」に対する支持があることが示されれば、無視することは困難になる。

採決や討論の方法は、議員からの提案を踏まえて今後決定される。規定は、閣僚は欧州議会が投票する前に議論を行う努力をすべきとしている。

●貴族院は何をするのか

非公選制の貴族院(上院)でも討論が行われるが、その内容は「留意」程度の位置づけにとどまる。上院には、草案を否決する権限はない。

●何を採決するのか

採決は2つの文書について行われる。

1)離脱協定

市民の権利や金銭面での合意事項、アイルランドとの国境の厳格な管理を避ける「バックストップ」(安全策)、離脱を円滑に進めるための移行期間の期限などについて取り決めた内容を示した法的文書。

2)将来の関係についての枠組み合意

通商や安全保障などの面で、英国とEUがどう長期的に協力していくかを定めた法的拘束力のない文書。

2017年6月以降、英国と欧州委員会(EC)が行ってきた交渉により得られた合意事項が、上記2つの文書にまとめられている。

●誰が投票するのか

議席650の下院で確実に承認を得るには、棄権や欠席の数にもよるが、320票前後が必要になる。議会に出席しない議員も複数いる。

採決には、投票数の過半数以上が必要になる。

●投票結果はどう公表されるか

一般的には、討論が終わった段階で、議長が議案に賛成の議員は「アイ(賛成)」、反対の議員は「ノー(反対)」と声を上げるように求める。ノーと叫ぶ議員がいる場合、議長は正式な投票を実施する。

この投票は、議員が賛成と反対それぞれ別に指定されたロビーに行くためのドアを通過することで行われ、テレビカメラや見学者は見ることができない。集計が終わると、議員は議場に戻る。書記官が結果を報告する。

●各党の動向は

メイ首相率いる与党保守党は315議席で、北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の議員10人の閣外協力により、法案通過に必要な過半数議席を維持している。

だが保守党内で、メイ氏の協定草案への支持は固まっていない。

欧州懐疑派は、草案はEUのルールに英国を縛り付ける内容だと反発。一方で欧州寄りの議員は、EUとの関係が遠くなり過ぎるとしている。両グループともに、草案を否決させるのに十分な議席数がある。

DUPの支持も、英領北アイルランドとアイルランドとの国境管理を巡る合意内容次第だ。同党は、北アイルランドと英本土で異なるルールが適用されるような合意は支持しないと表明している。

議席257の野党労働党は、同党が求める基準に満たない離脱合意はすべて否決するとしている。現在の協定草案は労働党の要求を満たさない可能性が高く、多くの労働党議員は反対票を投じるとみられている。

だが、合意なきEU離脱のリスクを回避するため、一部の労働党議員からメイ政権に同調して投票する動きが出る可能性がある。

議席数35のスコットランド国民党と、同12の自由民主党は反対するとみられている。

●可決されたらそれで終わりか

終わりではない。英政府は、離脱協定を発効させ、批准プロセスを完了させるための別法案を議会で通過させなくてはならない。

この法案は、EU(離脱協定)法案と呼ばれる。議会で検討され、修正される可能性もあるが、2019年3月29日より前に可決されなければならない。

法案は、すでに議会が可決した離脱協定を実現させるものであるため、この手続きにより離脱合意が覆されることはないとみられる。しかし、議員が法案審議をEU離脱プロセスを遅らせるために利用する可能性もある。

●否決されたらどうなるか

政権が転覆する可能性がある。

法律では、議案が否決された場合、閣僚は21日以内にその後の対応を表明しなければならない。メイ政権は、もしこの協定草案が否決されれば、英国は合意なしにEUから離脱することになるとしている。

閣僚らはその後、修正案を検討するための討論開催を議会に要請しなければならず、事実上、他の選択肢への道を開くことになる。

修正案に拘束力はないが、可決されればメイ首相は無視できなくなるだろう。

理論上、政府は2度目の投票を要請し、まったく同じ離脱協定草案、あるいは修正したものを提出して可決するよう求めることもできる。