米国債市場で、償還(返済)までの期間が長い国債の利回りが、短い国債の利回りを下回る「長短金利逆転(逆イールド)」と呼ばれる現象が起きた。長短金利の接近や逆転は景気後退の予兆とされるため、投資家の不安心理を呼び、株式市場の不安定化につながっている。
ニューヨーク債券市場では3日、2年物国債と5年物国債の利回りが11年半ぶりに逆転した。4日には、長期金利の代表的指標である米10年物国債利回りと2年物国債利回りとの金利差も、2007年以来となる0.09%まで接近。ニューヨーク株式市場で先行き警戒感が広がり、ダウ工業株30種平均が800ドル近くも急落した。
通常は償還期間が長いほど高くなる金利の逆転現象が起きる背景には、景気の先行き警戒感の高まりがある。米国の足元の景気は過熱状態にあり、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを続けているため、利上げの影響を受けやすい2年物利回りは高止まりしている。一方で、米中貿易摩擦などから将来の景気悪化懸念は強まり、10年物利回りはこの1カ月で急低下。金利差は急速に縮まっていた。
銀行や投資家は短期金利で資金を借り、長期で運用して利ざやを稼ぐため、長短金利が逆転すると投融資にブレーキがかかり、実際に経済を冷やす悪影響も起こる。このため、逆転は景気後退の直前に現れやすいとされ、米国では1960年代以降の7回の景気後退期にいずれも逆転が出現。リーマン・ショック前の05~07年にも発生していた。
先行き不透明感は東京市場にも波及しており、日本の長期金利も下落傾向にある。5日の取引では、10年物国債利回りは一時、前日より0.020%低い0.050%まで低下し、日銀が長期金利の上昇を容認した7月末の政策修正より前の水準まで低下した。
大和総研の小林俊介エコノミストは「景気の先行指標から見ても、米景気が来年にも減速し、20年には後退局面入りする可能性は高い。長短金利の逆転は、そうした見方を裏付けている」と指摘している。【土屋渓、ワシントン中井正裕】