注目の英議会の採決。どうなるのかなと思っていたら、直前になってメイ首相が採決を見送った。予定通り採決したら大差で否決されることが明らかになり、混乱回避のために採決自体を先送りした。致し方ない決断だと思う。だが、採決を先送りしたからといって英国のEU離脱が円滑に進む保証はない。EU側はこれ以上の合意案の再交渉はしないと明言している。メイ首相が保守強硬派に歩み寄れば、EU側が反発して合意案は成立しない。保守強硬派が納得する案を持ち出せば、今度はEU側が歩み寄ることを拒否するだろう。まさに出口のない隘路である。堂々巡りと非難合戦の応酬になる。そうこうするうちに英国もEUも経済的に疲弊していく。
EUの牽引役だったドイツもフランスも陰りが見え始めている。ドイツのメルケル首相は難民の受け入れをめぐって国民の不満を買い、地方選挙で大敗した。責任をとってドイツ最大与党のキリスト教民主同盟(CDU)の党首を辞任した。一方のフランス。EUの強化を主張するマクロン大統領は、燃料税の税率引き上げを発端に始まった反対運動に直面して政策変更を余儀なくされている。ポピュリズム政党が連立して政権を獲得したイタリアは、来年度予算をめぐってEUと対立している。英国のEU離脱はもともと難民の受け入れ拒否と国家としての独立が争点になり、国民投票で政治的独立を重視する離脱派が勝利した。いまEUで起こっていることは統一市場の維持と政治的独立という2つの相反する潮流の衝突である。
統一市場を優先すれば政治的独立は制限される。政治的独立に重きをおけば統一市場は諦めざるを得なない。英国の離脱案で最大の焦点となっている北アリルランドとアイルランドの国境をめぐる出入国の管理は、その象徴といっていいだろう。EUという巨大市場への接続を容易にするためには政治的な独立を制限するしかない、政治的独立を重視すれば国境の出入りは厳格にならざるを得ない。問題を解決する方策は簡単だ。どちらかを選べばいいだけだ。ところが、強硬派も穏健派も二者択一ができない。国民投票は離脱を選んだ。この時、市場より政治を優先することが決まったのだが、政治家は未だにそこが割り切れない。かつてギリシャがそうだったように、イタリアはいまEUにとどまって政治的な独立を勝ち取ろうとしている。離脱をきめた以上英国に残る道は合意なき離脱しかないだろう。EU離脱とはそもそもそういうことだ。