ソフトバンク(SB)が今日上場された。初値は1463円。売り出し価格の1500円を下回った。この原稿を書いている10時30分現在も売り出し価格を割り込んで推移している。世界的に株式市場は波乱含みだ。そんな悪い地合いが影響しているのだろう。上場のタイミングは良くない。SB株は多くの零細な個人投資家が購入したようだ。株式投資の経験がない若い世代が多いともいわれている。SBの将来性というより、親会社であるソフトバンクグループ(SBG)の会長兼社長である孫正義氏への期待感だろう。孫氏の原動力は「300年成長する会社をつくる」だ。それを象徴するようにデジタル系の出版社からスタートした孫氏は、カメレオンのように主要事業を変えながらグループの成長を導いてきた。SBが孫氏のエンジンだった。そのSBを独立させ、自らは投資事業に専念する体制を整えた。

SB上場で思い出すのは30年前のNTT株上場だ。当時筆者は大蔵省の記者クラブ(財研)に所属していて、NTT株の上場を行政サイドで担当していた。上場担当官は公正で公平な売り出しが口グセだった。バブルの絶頂期の上場である。郵政公社から分離して民営化、現在のIT時代の先導役を担った会社だ。当時の経済情勢を反映して売り出し価格は119万7000円。初値は160万円。売り出し価格で購入した投資家は全員が40万円近い利益をえた。そして上場から2カ月後の4月には318万円という史上最高値をつける。まさにバブルを象徴する値動きだった。日本中の投資家がNTT株の宴に踊ったのである。だが、奢れる者久しからず。最高値を付けたあと同株は富士山の頂上から転げ落ちるように急落に転じたのである。ここから株主の悲喜劇が始まる。

当時財研にいた筆者に尊敬する先輩から問い合わせがあった。「財研の記者には特別枠があると聞いたが本当か」。「そんなものあるわけねーだろう」、受話器を耳に当てながら心の奥底でタメ口を吐いたのを覚えている。新聞記者でさえ常軌を逸していた時代だ。この先輩はそのあと売り出しに応募しが、残念ながら抽選に外れた。だが、翌年から始まるバブルの崩壊や失われた20年を思うと、あの時抽選に漏れた先輩は幸運だったと思う。あれから30年である。世の中はNTTの民営化が正しかったことを証明した。博多で起業した孫青年はいまや世界中が認める“投資の神様”のような存在になった。この先IT化が加速するのは間違いない。30年後にSBはどんな会社になっているのだろうか。おそらく通信基盤を活用したビックデータの会社に変容しているはずだ。諸行無常の世界が加速する。