FRBのパウエル議長は昨日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で3カ月ぶりに政策金利を0.25%引き上げることを決めた。今年4回目の利上げだ。今回の利上げは当初から予想されたことでサプライズはない。強いて挙げれば来年度の利上げ見通しを3回から2回に減らしたことか。それも昨今の経済情勢を考えれば当然の成り行きだろう。今回の利上げの特徴は米国の“絶対権力者”ともいうべきトランプ大統領の再三にわたる利上げ批判にもかかわらず、パウエル議長が大統領の意向を一切忖度しなかったことだ。来年の利上げ回数を減らしたことをもって忖度と見る向きもあるようだが、そんなことはない。利上げペースの減速は実体経済を反映したもの。要するに今回の利上げでは、トランプ大統領の惨め姿が浮き彫りになったことが最大の特徴かもしれない。
それにしてもトランプ大統領にはコミュニケーション能力の欠片もないようだ。金融政策の独立性は世界共通の常識である。政権を握っている権力者は力を背景に金融政策に介入してはならない。そんな常識もトランプ大統領は全く通じない。FOMCを前にNYダウが急落していることを背景に、利上げを模索していたFRBに対して「常軌を逸している」と真正面から批判した。それも1回こっきりの単発というわけではない。ここ数日は連続的にFRB並びにパウエル議長を攻撃していた。これこそが「常軌を逸した行為」というべきだろう。大統領の振る舞いを見ながら、この大統領は物事の本質を理解していないのではないかと思った。今朝の日経新聞によるとパウエル議長は昨日の会見で、「我々は独立しており、金融政策に政治は何の影響力ももたらさない」と断言している。中央銀行トップとして当然のコメントだ。
経済の実態をとりあえず脇に置いて中央銀行トップの心理状態を忖度してみる。おそらく大統領が利上げを批判すれば批判するほど、議長としては利上げせざるを得なくなる。ここで利上げを回避すれば政治の介入を許したとみなされ、中央銀行の信頼感は地に落ちる。だから大統領による利上げ批判は逆に、強力な利上げ推進要因になるのだ。こうした因果関係をこの大統領はまったく理解していない。なんともお粗末な話だ。風車を巨人と思い込んで立ち向かうドン・キホーテ並みに滑稽だ。正気を失しているとしか思えない。さもなくば裸の王様だ。巨大な権力を持っているアメリカ大統領にも自由にならないものがある。金融政策と有権者のこころだ。NYダウは昨日も大幅に下がっている。売り材料はトランプ大統領その人かもしれない。