岡村夏樹、山村哲史
首相官邸に入る安倍晋三首相=2018年12月26日午前9時32分、岩下毅撮影
政府は26日、鯨の資源管理をしている国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。反捕鯨国が過半数を占めるIWCに加盟したままでは、日本が目指す商業捕鯨の再開は難しいと判断した。年内にIWCに通知し、6月末に脱退。7月から約30年ぶりに商業捕鯨を再開する。
菅義偉官房長官が26日午前の記者会見で明らかにした。脱退は25日の閣議で決定した。商業捕鯨は日本の領海と排他的経済水域(EEZ)内に限定し、南極海、南半球では捕獲しない。国際法に従い、IWCで採択された方式で算出される捕獲枠の範囲内で実施するとした。
菅氏は「今年9月のIWC総会で、鯨資源の持続的利用の立場と保護の立場の共存が不可能であることが改めて明らかになり、今回の決断にいたった」と述べた。
戦後、国際協調主義を掲げてきた日本が、自国の主張が通らないのを理由に国際機関から脱退するのは異例で、国内外から批判が出ている。思惑通りの商業捕鯨が実施できるかは見通せない。
日本は現在、北西太平洋と南極海で調査捕鯨を実施しているが、脱退するとこれらの調査捕鯨はできなくなる。捕鯨の規模は現在より縮小されることになりそうだ。
沿岸での小型鯨の捕鯨はIWCの対象外で、直接の影響はない。
IWCは1982年に商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を決め、日本は88年に商業捕鯨から撤退した。その後は北西太平洋や南極海で調査捕鯨を続けながら、資源が回復した種類での商業捕鯨の再開を繰り返し求めてきたが、豪州や米国、欧州諸国などの反対で認められてこなかった。
9月のIWC総会では日本が商業捕鯨再開と組織改革を提案したが、賛成27、反対41、棄権2で否決された。政府は「締約国としての立場を根本から見直す」と表明し、脱退を含む対応を検討してきた。
国内では古くから沿岸で捕鯨が営まれてきたが、大規模になったのは戦後の食糧難の解消のためだ。学校給食などに供給され、60年代には消費量が年20万トンを超えたが、近年は3千トンあまりに減っている。
日本が批准する国連海洋法条約は、鯨は国際機関を通じて管理すると定めている。政府は新たな枠組みづくりを進める方針だが、国際的に受け入れられる形が整わなければ、捕鯨そのものができなくなる可能性もある。(岡村夏樹、山村哲史)
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〈日本の捕鯨〉 国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を続けるなか、科学調査を目的に南極海と北西太平洋でミンククジラやイワシクジラを捕っている。調査は国が計画を作り、日本鯨類研究所(東京)などに委託して実施。2017年度は約600頭を捕獲した。このほか、沿岸ではIWCの管轄外のツチクジラなどの小さな種類を農林水産相の許可で捕っている。