平井ピッチに参加した平井卓也科学技術相(左)と、ソフトバンクの宮川潤一副社長(右隣)=平成30年12月12日、東京都千代田区の内閣府(桐原正道撮影)
平井ピッチに参加した平井卓也科学技術相(左)と、ソフトバンクの宮川潤一副社長(右隣)=平成30年12月12日、東京都千代田区の内閣府(桐原正道撮影)

 平井卓也科学技術担当相(60)が昨年10月の就任後、有識者との懇談会「平井ピッチ」を繰り返し開いている。「ピッチ」とは事業家が投資家に簡潔な事業提案をする意味で、楽天やソフトバンクなど有力企業の幹部らが参加し、昨年末までに28回も開かれた。ただし、官邸内の認知度はイマイチのようで、成果は…。

 「ゲノム編集に無限の可能性があることはよく分かっている。いろんな質問をさせていただきたい」

 昨年12月7日、平井氏は生物の細胞が持つ全遺伝情報(ゲノム)の中で、狙った遺伝子を改変する「ゲノム編集」をテーマにピッチを開き、こう意気込んでみせた。

 この日は、広島大学大学院の山本卓教授(ゲノム生物学)が最新事情を説明し、日本独自の技術開発に向けた研究費の増額を要望した。懇談会は約1時間半に及び、平井氏は最後に「戦略的な対応が必要だ」と締めくくった。山本氏は懇談会後、産経新聞の取材に「大臣に現場の生の感覚を伝えるチャンスはなかなかなく(懇談は)非常にありがたい」とピッチの意義を強調した。

 「平井ピッチ」の正式名称は「Pitch to the Minister懇談会“HIRAI Pitch”」。主に平井氏の執務室で行われるが、これまでに麻布、渋谷、日本橋、福岡まで出向いた出張版も開いた。

8回開催も具体的な成果は…

 懇談会は昨年10月24日を皮切りに、楽天の三木谷浩史会長兼社長やソフトバンクの宮川潤一副社長、宇宙分野や生物工学技術を生かした治療開発などの専門家ら50人以上が参加した。

 平井氏は、就任直後のインタビューで、100回開催を目標に掲げていたが、「通過点であっという間に終わってしまう」とするほどのハイペースだ。

 平井氏がピッチを始めた根底には、諸外国が科学技術の変革をめぐり覇権争いを繰り広げる中、従来の延長線上の取り組みでは不十分との危機感がある。ロボット技術などを高度に組み合わせた社会・経済変革の考え方「ソサエティー5・0」を念頭に、デジタル化が急速に進む中で、必要な環境整備や技術開発を逆算的に組み立てる必要があると考えている。

 これまでのピッチで具体的な成果は得られたのか。平井氏は行政の縦割りを排した情報共有ができ、参加企業などのマッチングも進んでいると評価する。公募でピッチの申し込みが殺到しており、記者会見では「各界の方々が大変な必要性を感じていただいている」と述べた。

 しかし、開始から2カ月とはいえ、政策面で具体的な成果は見えてこない現状もある。そのためか、ピッチへの評価は政府内でも分かれている。ある政府関係者は「(平井氏は)ピッチばかりやっている」と苦言を呈す。官邸詰めの記者ですら、ピッチの開催そのものを知らない例も少なくない。

一方、別の政府関係者は、平成31年度予算編成が大詰めを迎えた昨年12月17~21日に毎日開いたことに「予算要望もある中で、あれだけ時間を割けるのはすごい」と熱心さに驚いていた。

 平井氏は自民党で有数のIT通として知られ、党IT戦略特命委員長などを歴任した。安倍晋三首相(64)は昨年10月2日の記者会見で、平井氏を「この世界の第一人者だ」と太鼓判を押した。

 あるピッチの場で「政治家の仕事は与えられた政治的資源としての時間をどう効率的に使うかが勝負だ」とあいさつした平井氏。これまでの蓄積をいかに具体的な政策に生かせるか、真価が問われる。

(政治部 宮野佳幸)