昨日、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が年頭の記者会見を行った。今朝のマスコミ報道を見る限り徴用工問題の具体的な解決策や火器管制レーダー問題には一切触れていない。新聞報道もネットで見る限り扱いはさして大きくない。日本との関係では「両国の知恵を合わせて解決しようと考えているが、日本の政治指導者たちが政治争点化し、問題を拡散するのは賢明な態度ではない」(毎日新聞)と日本側の対応を批判した。各紙の論調もほとんど同じで「問題先送り」といった受け止め方が日本では主流のようだ。文大統領はこのところ支持率が低迷しており、会見の前から日本に対して妥協するような発言はしないだろう、との見方が大勢だった。その意味では想定内ということだろう。

一連の会見報道を見ながら個人的に気になったのは朝鮮半島の非核化に関する次の発言。「核交渉の行き詰まりを打開するためには、北朝鮮が2回目の米朝首脳会談で妥協する必要があるとの考えを示した」(ロイター)という点だ。昨年の南北首脳会談を通して文大統領は、北朝鮮と米国の仲介役としてそれなりの役割を果たした。これまでどちらかというと米国よりは北朝鮮の金正恩委員長寄りとみられていた文氏が、昨日は北朝鮮に妥協を求めたのである。これが政治的に大きな意味があるかどうかわからないが、米韓の間にはやや気まずい関係があると指摘されているだけに、この発言が個人的には際立って見える。金委員長は新年早々中国を訪問した。文氏がいくら北朝鮮に思いを寄せても北朝鮮は韓国よりも中国に顔を向けている。

南北の首脳は思ったほど相思相愛ではないのかもしれない。韓国軍による火器管制レーダーの照射問題の裏には、文大統領と金委員長のホットラインを通じた国連制裁破りがあるのではとのうがった見方もある。大統領にとって政治基盤の重要な要素が金委員長だとすれば、同委員長の訪中は文氏にとって誤算の一つだろう。そんなことを妄想しながら昨日の会見を見てみると、国内経済の不調に北朝鮮の思うに任せない行動、大統領として苦悩と苦渋が襲いかかってくる中で対日問題も真正面から受け止める余裕がなくなっている。文大統領は頭の上のハエを追うのに精一杯で、未来志向の日本との関係を検討する余裕がないのではないか。文大統領を批判するより同大統領に同情を寄せた方が韓国の実態がよりよく見えるのではないか。なんとなくそんな気がフッとした。