米中貿易摩擦などいろいろな悪材料が重なって、景気の実態はかなり悪くなっていると推測される。とはいえ、こうした見方はいずれも学者やアナリスト、経済評論家などの皮膚感覚をベースにした見通しに過ぎない。昨日、3月期の業績見通しを下方修正した日本電産の永守重信会長によると、「昨年10月まで計画通りに推移していたが、11月、12月になって受注ベースで世界的に全てのセグメントで尋常ではない変化が起きた。46年間経営をやってきて、月単位でこんなに落ち込んだのは初めてだ」(日経新聞)という。実体経済は大方の想像をはるかに超えて悪化しているようだ。会社を経営している経営者の経営感覚の方が、景気の現状をありのまますくい取っているような気がする。

昨年の11月、12月といえば米中の貿易戦争が一段と激しさを増した時期である。トランプ大統領は11月の中間選挙に向けて“強い”大統領であり、岩盤支持層といわれる保守系右派の支持率を磐石にするため中国に対して強硬姿勢に転じていた。この時すでに中国製品に対して追加関税を付加、中国の対応によっては中国からの輸入品のほぼ全ての関税を25%に引き上げると、さらな強硬策をぶち上げていた。永守会長によるとこの時期に工作機械の部品を中心に中国では発注を控える動きが顕在化しており、その規模は「尋常でない」規模に達していたということである。12月1日のG20にあわせて米中首脳会談が実施され、今年1月に予定されていた追加関税の税率引き上げは見送られたものの、現在も米中の貿易協議は続いている。

状況はいまも改善しないまま燻っている。問題はこの先をどう見るかだ。永守会長は「20年度に売上高2兆円を達成する目標は変えない。投資すべきものには投資し、新事業も計画通りに進める。ただ、世界経済や政治の影響で足元がこれだけ大きく変化をした。縮むのではなく、しゃがんで、それからまた飛躍する。構造改革を先行的に行い、仮にさらに市場が悪化しても我々は結果を出すつもりだ」(同)と、強気の姿勢は崩さない。だが、とりあえず一旦「しゃがむ」ことを優先する。しゃがんでやることは「構造改革」である。企業として贅肉を削り、筋肉質の体質にした上で世界的な経済環境の回復を待つということだろう。先見性に長けた永守会長らしいコメントだ。永守会長の皮膚感覚を敷衍すれば、消費者も一旦財布の紐を締めなさいということだろう。悲観することはないが、慎重にならざるを得ないようだ。