トランプ大統領が5日に上下両院合同会議で行なった一般教書演説は、これまでの成果を誇示するスタイルは変えなかったものの、中身は予想以上に穏やかな印象だった。メキシコの壁をめぐり非常事態宣言もなく、政府機関の再閉鎖といった事態は避けられそうな雰囲気だ。15日に期限を迎える暫定予算の更新は順調に行くだろう。懸案となっている北朝鮮との首相会談は今月の27日と28日に決まった。ベトナムのダナンで開催される。北朝鮮との緊張関係が大きく改善されたと誇らしげに語ったものの、第2回首脳会談に向けた詳細は明らかにしなかった。演説するトランプ大統領の後ろで民主党のロペス下院議長が穏やかなに、時には顔をしかめ、手振り身振りで異議を唱えていた姿が印象的だった。

この演説でトランプ大統領は、「不法移民の問題は差し迫った国家の危機だ」(ロイター)、「国境沿いの壁建設を実現する」(同)といつもの通り強調したものの、国家非常事態という最強手段の発動は見送った。代わりに「単純に言って、壁は機能する。壁は命を救う。協力して妥協し、米国を真に安全にする方法で合意しよう」と訴えた。いつものような強圧的で一方的な姿勢はみられない。土壇場にくるといとも簡単にあっけないほどおおらかに妥協する同大統領の面目躍如といったところだ。すでに水面下で民主党との妥協が成立しているのかもしれない。2度目の政府機関の閉鎖はないだろう。むしろロシア疑惑など不祥事に対するけん制には力がこもっていた。「米国では経済的奇跡が起きている。それを止め得るのは、ばかげた戦争や政治、理不尽な調査だ」と名指しこそしなかったものの、民主党やイラン、共和党内の米軍の撤退反対派などを批判した。

米朝首脳会談は今月の27日と28日にベトナムのダナンで開催することが決まった。かつての交戦国・ベトナムである。それはまるで「米国と親密になればこんなに国は発展する」と言外に言っているようなものだ。ベトナム女性を騙して金正男を暗殺させたのは北朝鮮である。そんな過去の事実はどのメディアも報道しない。中国の習近平主席や韓国の文在寅大統領が参加して朝鮮戦争の終結宣言に署名するのではないか、根拠のない楽観論が先行している。その一方で日本は巨額の北朝鮮の復興に向けた資金をむしりとられるとの悲観論も横溢している。米中の貿易摩擦も今月末が合意のデッドラインだ。国際情勢は懸案が山積している。こちらも一般教書演説のように大した見所もなく、引き続きもたつきながら進んで行くのだろう。