米 核合意離脱

アメリカ政府は、イラン産原油の禁輸に向けた経済制裁で、日本などに認めていた制裁の適用除外について、来月上旬以降は延長しない方針を発表しました。イランが強く反発するのは確実で、両国の間で緊張が高まるおそれもあります。

トランプ政権は、イラン核合意から離脱したことに伴い、去年11月、イラン産原油の輸入を禁止する経済制裁を発動させましたが、イランと原油取り引きのある日本や中国、インドなど8つの国と地域は、180日間、適用対象から外す措置をとっていました。

これについて、アメリカのホワイトハウスは22日、適用除外を今後は延長しない方針を発表しました。このため、日本などがイランから原油を輸入すれば、経済制裁の対象となるおそれがあり、イラン産の原油を輸入することが難しくなります。

アメリカ国務省でイランを担当するフック特別代表はNHKのインタビューに対し原油の供給が増え、市場が安定しているという見方を強調したうえで、「日本や、ほかの同盟国への供給が一切、妨げられないことを保証するのがアメリカの政策だ」と述べ、日本には大きな影響はないという考えを示しました。

また、ポンペイオ国務長官は記者会見で、イラン産原油の制裁について、来月2日以降は、適用除外を認めないと指摘したうえで、「イランの原油の輸出をゼロにする。イラン指導部から財源を奪い、普通の国としてふるまわせることが目的だ」と述べました。

アメリカとしては、イランの生命線とされる原油の輸出を全面的に断ち切ることで経済に打撃を与え、イスラム体制の弱体化につなげるねらいですが、イランが強く反発するのは確実で、両国の間で緊張が一層高まるおそれもあります。

アメリカ政府は、今後、サウジアラビアやUAE=アラブ首長国連邦などの産油国と協力し、市場に原油が適切に供給されるよう、つとめるとしていますが、国際市場でイラン産の原油の供給が減ることに伴い、原油価格の上昇も懸念されそうです。

石油元売り各社「供給に影響は出ない」

日本は、これまで原油の輸入量全体の5%程度をイランから調達しており、重要な原油の調達先の1つと位置づけてきました。

しかし、去年11月にアメリカのトランプ政権がイランへの経済制裁を発動するのを前に、「JXTGホールディングス」や「昭和シェル石油」などの石油元売り各社は、制裁の対象になるのを避けるため、去年10月からイランからの輸入を停止することになりました。

その後、アメリカは日本などを制裁の適用から除外することを決めたため、ことしに入り各社は輸入を再開していました。ただ、除外期間はもともと180日に設定され、延長されるめどもたたないことから各社は今月から再度、イラン産原油の輸入を停止していました。

アメリカが正式に延長しない方針を明らかにしたことでイラン産原油の輸入停止が続くことになりますが、各社は、他の国からの調達で補えるため国内のガソリンなどの石油製品の供給に影響は出ないとしています。

イラン 制裁発表から原油輸出量半分ほどに

イランは世界第4位の原油の生産国で、原油収入は政府の歳入の3割以上を占めるなど、国の経済の柱となってきました。

原油の輸出量は、去年前半は日量およそ240万バレルで推移していましたが、アメリカのトランプ政権が去年5月、イランの核合意から一方的に離脱し、経済制裁を発表してからは、原油の輸出量は減少を続け、ことし2月にはおよそ120万バレルと、半分程度にまで減りました。イランは、今年度の予算で原油の輸出量を100万から150万バレル程度と見込んでいますが、アメリカが圧力を強化する中で輸出量はさらに減少する可能性があります。

また、アメリカの制裁によって、イラン国内ではこの1年の間に、現地通貨のリアルは、価値が3分の1にまで減り、さらに輸入品だけでなく食料品や日用品なども高騰が続いていて、今後、市民生活へのさらなる打撃が懸念されます。

一方、イラン産原油の輸出量は世界の消費量の1%余りを占めていますが、アメリカの制裁は原油価格の高騰を招くことが懸念されています。国際的な原油取り引きの指標となるWTIの先物価格は今月に入ってほぼ半年ぶりの高値をつけています。

イランのザンギャネ石油相は今月14日、地元メディアに対して「世界の石油市場はぜい弱で、需要に対する供給量はそれほど多くはないはずだ」と述べ、圧力を強めるアメリカをけん制していました。

イラン外務省「米制裁は違法」

アメリカがイラン産原油の禁輸に向けた経済制裁の適用除外を延長しない方針を発表したことについて、イラン外務省のムサビ報道官は22日、地元メディアに対し、「アメリカによる経済制裁は違法であるため適用除外に意味はなく、従う必要もない」と述べ、アメリカの方針を無視する姿勢を強調しました。

そのうえで、「制裁の影響を考慮しながら、ヨーロッパなど各国と協議を行っている」として、今後も、原油の輸出先などと連携していく考えを示しました。

一方、革命防衛隊のタングシリ海軍司令官は「ホルムズ海峡の利用を認めないのであれば、封鎖することになるだろう」と述べて、全面的な禁輸措置が発動されればエネルギーの大動脈となっているペルシャ湾のホルムズ海峡を封鎖することも辞さないとして、アメリカを強くけん制しました。

アメリカの経済制裁を受けて、イランの原油の輸出量は1年前から、半分ほどに減少していて、経済が打撃を受ける中で発表された今回の決定に、イラン国内では反発が広がっています。

米国務省 日本の原油供給に影響ない

イランを担当する国務省のフック特別代表は22日、NHKのインタビューに応じ、「日本政府とは発表の前にあらゆるレベルで幅広い意見交換をしてきた」と述べました。

そのうえで、「適用除外を延長する必要がなくなったのは、どの国も必要な原油を、必要なときに得られるようになったからだ」と述べ、原油の供給が増え、市場が安定しているという見方を強調しました。

そして、「日本や、ほかの同盟国への供給が一切、妨げられないことを保証するのがアメリカの政策だ」と述べ、サウジアラビアなどによる増産で原油は十分に供給されるとして、日本に大きな影響はないという考えを示しました。

サウジアラビアの閣僚「市場の動向注視」

OPEC=石油輸出国機構の最大の産油国であるサウジアラビアのエネルギー政策を担当する閣僚は22日、国営通信を通じて声明を発表し「アメリカ政府の決定を受けた市場の動向を注視している。市場のバランスが崩れないよう他の産油国と連携したい」と述べました。

サウジアラビアは、地域の脅威だとして、イランと敵対する一方、原油の生産量については、価格を引き上げるため、ことし1月からOPECの加盟国やロシアなどと協力して、減産を主導してきました。

しかし、アメリカのトランプ政権は、原油価格が高騰することを懸念しイラン産の原油が市場に出回らなくなる穴埋めとして、同盟関係にあるサウジアラビアに増産を促しており、今後、サウジアラビアが、ほかの産油国とともに減産の見直しに向けた議論を始めるかなど、動向が注目されそうです。

トルコ外相「一方的な制裁は拒否」強く反発

イラン産原油の禁輸に向けた制裁の適用が除外されてきた8つの国と地域に含まれるトルコのチャウシュオール外相は22日、ツイッターに「アメリカの方針は地域の平和と安定に寄与せず、イラン国民を苦しめるだけだ。トルコは一方的な制裁や、隣国との関係における押しつけを拒否する」と書き込み、強く反発しています。

トルコの原油の輸入量全体に占めるイラン産原油の割合は、おととしには40%余りでしたが、アメリカの制裁の動きを受けて徐々に減少し、現在は5%程度となっています。

イスラエル首相「正しいやり方」と歓迎

イランと敵対するイスラエルのネタニヤフ首相は22日、「アメリカのトランプ大統領がイランに対する制裁を強化すると決めたことは、非常に重要だ。これこそが、イランの敵対的な行為に対処し、それを止めるための正しいやり方だ」と述べ、トランプ政権の決定を歓迎する考えを示しました。