イランを訪問中の安倍晋三首相は13日午前(日本時間同日午後)、テヘランで最高指導者ハメネイ師と会談した。首相は「平和への信念を伺うことができた」と会談を評価した。一方、最高指導者事務所によると、ハメネイ師は、米国への不信感を表し、トランプ米大統領との対話に否定的な姿勢を示した。
会談は約50分間で、河野太郎外相やロハニ大統領らが同席した。ハメネイ師は行政、司法、立法、さらには中東屈指の軍事力の精鋭部隊・革命防衛隊なども統括。あらゆる政策を最終的に決める立場にあり、国民の投票で選ばれる大統領を上回る権限を持つ。反米を基調とする保守強硬派への影響力があり、首相が今回の訪問で最も重要視したのがハメネイ師との会談だった。
首相は会談後、記者団に「ハメネイ師からは『核兵器を製造も保有も使用もしない。その意図はない。するべきではない』との発言があった」と明らかにした。首相は「平和への信念を伺うことができた」としたが、日本政府は会談時のハメネイ師の対米姿勢は明らかにしなかった。また、首相は「先般トランプ大統領と会談をした際、事態のエスカレートは望んでないとの発言があった」としたうえで、「大統領がどのような意図を持っているのか、私の見方を率直に話した」と明らかにした。
一方、最高指導者事務所によると、「米国からのメッセージをお伝えしたい」と話した首相に対し、ハメネイ師は「安倍首相の善意に疑いは抱いていないが、トランプ氏は意見交換に適した人物ではなく、答えることもない」と強調した。また自身のツイッターでは「米国との交渉でイランは発展に向かう」というトランプ氏の言葉を首相から伝えられたとした上で、「交渉しなくても、制裁にさらされても、イランは発展する」とアピールした。
ハメネイ師はまた、5月の日米首脳会談の数日後に、米国がイランの石油化学関連業界に制裁を科したことを指摘し、「これが誠実に交渉を求めているということなのか」と米側を強く非難し、従来の立場を崩さなかった。
ただ、ハメネイ師のこうした立場は、米国に足元を見られないように、あえて米国への不信感と敵対心を強調した側面もある。さらには国内の反米を基調とする保守強硬派への配慮などが背景にあったとみられる。このため、米国の制裁緩和などの措置次第では、ハメネイ師の方針が変わる可能性も残されている。
ハメネイ師との会談に先立ち、首相は12日夜(日本時間同日深夜)、ロハニ大統領と会談。共同記者発表で、首相は米・イラン両国を念頭に、中東地域の安定のため「お互いが努力をしなければならない」と歩み寄る必要性を強調。ロハニ師は「我々は米国との戦争を望んでいない。だが、攻撃を受ければ断固たる措置をとる」とした。「地域の緊張は米国による経済戦争が理由」としつつ、経済制裁の緩和を条件に外交努力による事態打開に意欲を示していた。
中東では昨年5月、米国がイランの核合意から離脱。経済制裁を復活させ、原子力空母をペルシャ湾に派遣するなどした。イランは核合意の履行の一部停止を打ち出すなどして反発。中東地域で緊張が高まっている。(テヘラン=伊沢友之、杉崎慎弥)