安倍首相のイラン訪問は、ホルムズ海峡における日本タンカーへの武力攻撃という予想外の事態を引き起こした。ロウハニ大統領に続いて最高指導者であるハメネイ師とも会談、「会うことに意味がある」という点で安倍首相の訪問は成果があったのかもしれない。ただ、会談ではっきりしたことは、米国とイランの抜き差しならない関係である。トランプ大統領の親書を携え「歩み寄り」を説く安倍首相に対してロウハニ大統領は、「地域の緊張は米国による経済戦争が理由」と米国を糾弾した。ハメネイ師はもっとつれない。「トランプ氏は意見交換に適した人物ではなく、答えることもない」(朝日新聞)と対話そのものを拒否する姿勢を示した。NHKによるとテヘラン大学のマランディ教授は、「日本がアメリカと一線を画す行動をとらないかぎり、アメリカとの仲介役を果たすのは難しい」(NHK)との見解を示している。
日本はイランと長年に渡って友好関係を維持している。とはいえ、アメリカは同盟国であり、イラン以上に親しい関係にある。イランから見れば日本は敵対国ではないが、仲介役になった途端に「敵の味方は敵」となる。もっと厳しい現実は、日本のタンカーが攻撃されたことだ。誰による攻撃かいまのところ判然としない。米国は「イランが関与している」(ポンペオ米国務長官)と主張するが、イランは「断固として否定する」(国連代表部)と真っ向から反論する。常識的に考えれば誰もが「イランだろう」と推測できる状態で、あえてイランはやるだろうか。イランに敵対する国がイランと見せかけて攻撃するというのが一番想像しやすい可能性だ。それはともかくとして、火中の栗を拾いに行った日本にも、「敵」を説得する覚悟はないだろう。かくして安倍首相は何もできずに機中の人になった。
もともと「成果を期待すべきではない」という声が国内にもあった。一筋縄で動くような世界ではない。トランプ大統領も安倍首相の訪問は評価しつつも、イランとの取引は「時期尚早」と早期の対話復活には消極的だ。となれば、安倍訪問には大した意味がなかったということになる。だが、ここで簡単に諦めるべきではないだろう。朝日新聞は以下のような視点を提供する。「ただ、ハメネイ師のこうした立場は、米国に足元を見られないように、あえて米国への不信感と敵対心を強調した側面もある。さらには国内の反米を基調とする保守強硬派への配慮などが背景にあったとみられる。このため、米国の制裁緩和などの措置次第では、ハメネイ師の方針が変わる可能性も残されている」。これが「会うことに意味がある」理由だとすれば、表面的な言葉の裏で何かが動いている可能性もある。とりあえずはそれに期待しよう。
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