中国の習近平国家主席(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=AP
最近の中朝関係

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)が20、21両日、中国最高指導者として14年ぶりに北朝鮮を訪問することになった。朝鮮半島情勢の行き詰まり打開に向け、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とどのような対話を進めるのか、国際社会が注視する。

中国 対中批判かわす「切り札」

 習氏訪朝がこのタイミングで決まったのは、大阪で28、29両日に開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、北朝鮮の後ろ盾としての影響力を誇示し、日程調整が進むトランプ米大統領との米中首脳会談を少しでも優位に進める思惑があるとみられる。

 陸慷(りく・こう)外務省報道局長は17日の定例記者会見で、トランプ氏が大阪で習氏との会談を呼びかけていることについて「日程が決まれば発表する」と述べるにとどめ、日程調整が難航していることを示唆した。

 中国側の懸念は香港情勢だ。刑事事件の容疑者を中国本土の司法当局に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正案の撤回を求める香港のデモを巡り、デモに理解を示す米側と中国側の溝が浮き彫りになることを避けたいからだ。

 トランプ氏が会談で香港に言及する姿勢を示していることについて、陸氏は17日の会見で「中国への内政干渉の口実にするのであれば、我々は断固反対する」と述べた。

 米中通商協議は5月にワシントンでの閣僚級協議以降、暗礁に乗り上げたままだ。この状況でトランプ氏と大阪で会談しても、通商問題や香港のデモを巡り、米側から要求を突き付けられ、国際社会から対中批判が盛り上がる懸念があった。

 事態打開の切り札として、北朝鮮カードが浮上した。

 今年は中朝両国は国交樹立から70周年であり、習氏と金委員長の相互訪問の日程調整が進められてきた。

 習氏が中朝首脳会談で、北朝鮮が非核化を進める意図を再確認し、金委員長から何らかの言質を引き出すことができれば、トランプ政権としても中国の役割を評価せざるをえなくなる。

 一方、習氏の訪朝が2日間と短いことなどから核問題での実質的な成果を期待する声は出ていない。「香港のデモなどで厳しさを増す中国への視線を朝鮮半島に向けられるだけでも訪朝は成功」(北京外交筋)との見方が一般的だ。【北京・浦松丈二】

北朝鮮 習氏との会談で国際社会にアピールへ

 北朝鮮が、主要20カ国・地域(G20)首脳会議に先立つ習氏訪朝を外交的成果と捉えているのは間違いない。金委員長が習氏との会談で自国の主張を伝え、それを習氏の口を通して国際社会にアピールできるからだ。また国内向けには中国最高指導者の14年ぶりの訪朝を「金委員長による外交成果」と大々的に宣伝することで求心力を高めることができると踏んでいるようだ。

 金委員長は昨年来4度、中国を訪問して習氏と会談した。だが中国側からの最高指導者の訪朝は実現せず、相互往来の観点からはバランスの悪さが指摘されてきた。

 北朝鮮としては、米国との非核化交渉を維持しつつ、伝統的な友好国である中国との距離を縮めたいという思惑がある。また、対米交渉が停滞し、米国との関係が再び悪化した場合に備え、常に中国を後ろ盾として自国に引きつけておきたいという考えもあるようだ。

 また前回、中国最高指導者として2005年10月、当時の胡錦濤総書記(国家主席)が訪朝した際、北朝鮮側に大型経済支援が実施された経緯もあり、北朝鮮側としては今回も同様の支援によって、経済立て直しのきっかけをつかみたいところだ。【ソウル渋江千春】

米国 中国の「後ろ盾」警戒

 トランプ米政権が北朝鮮に対する制裁圧力を維持しつつ非核化へ政策転換を迫るためには、対朝貿易の9割を占める中国の関与は不可欠だ。米側は今年2月、米朝首脳共同声明4項目に加える形で、北朝鮮の経済発展に関係国が協力する「第5の柱」を提案した。その中でも北朝鮮と国境を接する中国の役割は大きく位置づけられている。

 一方で米朝の2国間交渉を進めたい米政権は、中国が北朝鮮の「後ろ盾」として影響力を行使し、多国間枠組みや段階的非核化を主張するロシアなどとともに連合を形成し、交渉の主導権を握られる事態を警戒している

 来年の大統領選での再選を目指すトランプ大統領は、今月18日の演説で選挙活動を本格化する。中東情勢が不安定化するなか、金委員長との関係構築によって実現した米朝の緊張緩和を「政権最大の外交成果」としてアピールしていく方針だ。

 来年の選挙日程を考えれば、3回目の米朝首脳会談実現の期限は「年末まで」とささやかれる。北朝鮮との非核化協議について、このタイミングで前進を見たい考えだ。

 北朝鮮が「時間稼ぎ」で揺さぶりをかけたり、中国が米中貿易交渉のテコに北朝鮮問題を用いたりすれば、米側の態度が一変、激しく反発する可能性もある。トランプ氏は16日、米ABCテレビのインタビューで金委員長との関係を「非常に強固だ」と繰り返す一方、「状況が変わる時が来るかもしれない」と含みをもたせた。【ワシントン高本耕太】

韓国は歓迎

 韓国の青瓦台(大統領府)は17日夜、中国共産党の習近平総書記(国家主席)訪朝について「完全な非核化交渉の早期再開と恒久的な平和定着に貢献することを期待する」と歓迎する報道官談話を発表した。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は大阪で今月末に開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせ、習氏に訪韓を要請していた。しかし、青瓦台関係者は今月7日、「訪韓はない」と明言。韓国は、習主席が訪韓を断念したのは訪朝が理由だと中国から説明を受け、連携していた可能性が高い。 【ソウル堀山明子】