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インタビューに応じる、元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏=2019年6月10日、米ワシントン・ピーターソン国際経済研究所、ランハム裕子撮影

 先進国が「長期停滞」に陥り、格差は縮まらず、賃金や物価も上がりにくい。金利を低く抑える金融緩和は限界で、政府がさらに財政出動すべきだ――そんな論調が勢いを増している。各国に財政再建を求めてきた国際通貨基金(IMF)でチーフエコノミストを務めた、オリビエ・ブランシャール氏もそうした論者の一人だ。かつて在籍したIMFとは大きく異なる論を唱える背景は何なのか。

 ブランシャール氏は朝日新聞の取材に応じ、安倍政権が10月に予定する消費増税に反対する姿勢を示した。「消費増税を実施すれば不況になるかもしれない一方、債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は大して改善しない。日本銀行の金融政策ももう使えない」と指摘。「私なら期限を定めず延期して、『引き上げられる時期が来たら直ちに引き上げる』と言うだろう」と述べた。

 長期停滞の要因でもある少子化を食い止めるため、子育て支援などの対策に財政支出を進めるべきだとも主張した。財政支出が正当化される理由として「今後も長い間、長期金利は名目成長率を下回り続ける」と指摘。この条件が満たされる限りは、債務のGDP比は大きく悪化しないためだが、日本の財務省は「名目成長率が長期金利を上回る状況が持続する保証はない」との立場に立つ。

 ブランシャール氏は「ただ財政赤字を拡大すればいいなどと言っているわけではない」としつつ、「日本銀行が長期金利を押し下げ続けると約束している」ため、投資家が財政赤字拡大を懸念して国債が売られるようなリスクは「取り除かれている」と述べた。

 ブランシャール氏は2008年のリーマン・ショック後、IMFのチーフエコノミストを長く務め、危機の収拾に当たった。財政健全化の旗を振るIMF出身で、マクロ経済学の大家としても知られる。

 米経済はトランプ政権の財政政策(減税)による好況が続くが、一向にインフレが加速していない。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)の高官らも「日本型」の金利低下デフレ圧力の恐れに敏感になっている。ブランシャール氏はこの機をとらえ、今年1月4日に米経済学会で、米国でも低金利が続く限りは「公的債務のもたらす財政コストは、通説よりもずっと小さいかもしれない」と指摘。「財政政策の復権」の論陣を張ってきた。(ワシントン=青山直篤)