[ボーンマス(英国)/ロンドン 2日 ロイター] – イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁は2日、世界的な貿易戦争のほか、英国の合意なき欧州連合(EU)離脱に起因する英経済に対するリスクは増大しており、景気減速に対応するために若干の支援が必要になる可能性があるとの考えを示した。これを受け、英中銀による利下げ観測が高まった。
カーニー総裁は講演で、多くの先進国でインフレが根強く低迷していることは、いわゆる均衡利子率が中央銀行の想定よりも低い水準にある可能性を示していると指摘。ただ、世界の多くの国で金利がすでに低水準にあることを踏まえると、経済が衝撃を受けた際は景気支援に向け政府支出の拡大や減税などが必要になる場合もあるとし、「一部で金融政策の余地が限られる可能性があり、減速が現実になれば、財政政策による補完が一段と望ましくなる」と述べた。
カーニー総裁の発言を受け、英ポンドが対ドルで2週間ぶりの安値を付けたほか、英国債利回りも大きく低下した。市場では英中銀が年末までに利下げを決定する確率が57%であることが示されている。総裁発言前は41%だった。
ナットウエスト・マーケッツのエコノミスト、ロス・ウォーカー氏は「カーニー総裁は近い将来に利下げがあると示唆しているとは考えていないが、少なくともリスクバランスは変化した」と述べた。
米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がハト派的なシグナルを発する中でも、英中銀はEU離脱が円滑に進めば段階的な利上げが必要になるとの見解を堅持。ただ、カーニー総裁は英中銀のこうしたスタンスと市場の見方との間に乖離が出ていることは認めた。
総裁は、英国では市場で合意なきEU離脱と利下げを巡る観測が高まっており、円滑な離脱を予測している中銀金融政策委員会(MPC)との間の乖離が拡大していると指摘。こうしたことは市場が誤っていることを示しているのではなく、離脱を巡る合意が得られた場合、英ポンド相場や不動産価格などが上昇する可能性があることを示していると述べた。
また、中銀はボリス・ジョンソン前外相とジェレミー・ハント外相のどちらが次期首相に就任してもEUと合意した上で離脱する目標を追求すると予想していると表明。ただ両氏ともに、必要に応じて合意がないままEUを離脱することも辞さない方針を示している。
総裁はEU離脱のほか、通商を巡る緊張の高まりが世界経済に及ぼす影響も英国に対するリスクと指摘。「世界的な経済成長の質は劣化した。主要7カ国(G7)では企業投資の伸びは2017年終盤に付けたピークの半分程度となっており、世界的な景気拡大の(個人)消費支出に対する依存度は高まっている」と述べた。
このほか「英国では労働市場が引き締まっていること、インフレ率が目標を達成していることに加え、EUとの将来的な関係の明確性が増す兆候が出るなど、比較的力強い初期条件がそろっており、(中銀が)中期インフレ見通しに注目することの論拠となっている」と表明。中銀が8月に経済見通しを更新する際にこうした状況を正確に描き出す方法を模索するとした。
また米FRBの政策を巡り、不確実性の台頭を受け市場で利上げ観測が急速に利下げ観測に転換したことに言及。「一部では、景気拡大の維持に向けた保険のための短期的な政策対応が正当化される可能性がある」と述べた。