イラン中部ナタンツの核施設を視察する当時のアハマディネジャド大統領=2007年3月(大統領府公式ウェブサイトより)(EPA時事)

 【テヘラン時事】イランは7日から、2015年の核合意で3.67%以下と定められていた濃縮度の上限を無視したウラン濃縮活動に着手する見通しだ。核開発の本格化でウラン濃縮度が上がれば、核兵器1個の製造に必要な核物質獲得までの期間が大幅に短縮される恐れがあり、「イラン核武装」を阻止したい米国が猛反発するのは確実。イランの核活動に歯止めをかけてきた合意は形骸化し、一段と深刻な対立局面を迎えそうだ。

 最高指導者ハメネイ師のベラヤティ顧問は6日、国営メディアに対し、まず濃縮率を5%程度に高め、その後さらに上げる可能性を示した

 イランのロウハニ大統領は5月8日、合意履行の一部停止を発表。一方的に合意を離脱した米国を除く欧州の当事国に対し、60日以内に原油・金融取引の制裁緩和で進展がなければ、ウラン濃縮などで課された制限を守らないと警告した。今月7日はその期限に当たる。

 欧州側は、米国の制裁を回避して対イラン貿易を行う「貿易取引支援機関(INSTEX)」の運用を開始し、前向きな姿勢を強調している。しかし、イランは欧州側の努力は「不十分」と指摘。濃縮度を高めて揺さぶりをかけ、欧州から一層の経済的見返りを引き出す考えとみられる。

 イランは合意の履行を次々と取りやめており、7月に入ってからは低濃縮ウランの貯蔵量が合意で認められた上限を超過した。ただ、欧米などの当事者に「重大な合意の不履行」があった場合、イランはそれを理由に順守を停止できると明記している。イランが履行の一部停止について、米国の離脱と制裁強化への対抗手段であり、「合意に違反していない」と正当化する根拠となっている。

 それでも濃縮度の引き上げは、イランにとっても危険な賭けとなり得る。核兵器に使う高濃縮ウランの濃縮度は90%以上で、3.67%を突破しても直ちに核兵器を製造できるわけではない。しかし、20%程度に達すれば、その後は比較的容易に濃縮度を高めることができるとされる。

 イランは「核兵器の製造も保有も使用もしないし、その意図もない」(ハメネイ師)と一貫して平和目的の原子力利用を主張しているが、世界から疑念の目を向けられることは避けられない。米トランプ政権は「イランにいかなるレベルのウラン濃縮を認めるのも誤りだ」と警戒を強めている。