【ソウル時事】大量破壊兵器に転用可能な「戦略物資」が韓国から北朝鮮の友好国に流れている疑惑が浮上する中、韓国政府は適正な輸出管理体制を強調している。韓国側は日本との事務レベル会合でも同様の説明を繰り返したが、韓国の管理体制には疑念を呼ぶ点も多い。

 韓国産業通商資源省は10日、2015年~19年3月に、計156件の戦略物資の不正輸出を摘発したことを公表。同省は「日本から輸入したフッ化水素が北朝鮮に流出した証拠は発見されなかった」と主張した。

 だが、今年5月に同省から国会議員に提供された不正輸出の詳細を記したリストには、不透明な部分も多く残る。時事通信が入手した同リストによれば、不正輸出で北朝鮮友好国のイランやシリアに戦略物資が流れた事例があった。

 イランには17年12月、猛毒サリンの原料となる「フッ化ナトリウム」、シリアには18年3月に実験用設備「生物安全キャビネット」が不正輸出され、摘発された。いずれも生物化学兵器に転用可能とされるが、輸出した企業名はイニシャルのみで、戦略物資が回収されたかどうかも不明だ。

 韓国大統領府高官は12日、摘発状況の公表は「政府が輸出管理ルールを透明に履行していることを証明するものだ」と強調。あくまで輸出管理体制に問題はないとし、日本側の規制強化の不当性を訴えている。

 日本政府が今回の輸出規制強化に踏み切った背景に、元徴用工問題をめぐる韓国への信頼喪失があるのは間違いない。韓国政府は「政治的目的の経済報復」と批判し、撤回を求めている。元徴用工問題への対応が置き去りにされたまま、両国の対立は泥沼化しつつある。