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記者会見で質問に答える吉本興業の岡本昭彦社長=2019年7月22日午後3時44分、東京都新宿区、越田省吾撮影

 「芸人との信頼関係を揺るがせた」。吉本興業の岡本昭彦社長は22日の会見で自身の至らなさを謝罪した。振り込め詐欺グループの宴会に参加して金銭を受け取り、契約解消した宮迫博之さんが田村亮さんと20日に開いた会見で、謝罪会見を開かせてもらえなかったなどと訴えた声が頭を下げさせた。会見のなかで岡本社長は唐突に宮迫さんの契約解消を取り消す意向も表明したが、再生への道はまだまだ険しい。

 明治時代の末に大阪で創業し、お笑いを看板に成長してきた吉本興業。小さな寄席の経営に始まった歴史があり、ダウンタウンの松本人志さんがあえて言わずとも「芸人ファースト」でなければ本来成り立たないはずの会社だ。しかし、最も重要な芸人は一筋縄ではいかない存在。おっちょこちょいで時には裏切られることもある――紆余(うよ)曲折はありながらも、そんな芸人たちの活躍の場を広げつつ、心をつかんできたのが吉本の強みだった。

 今回の問題で、はじめの非は明らかに金銭の受け取りを否定する虚偽の説明をしていた芸人にある。だが、金銭授受の発覚後に謝罪会見の場を求めた宮迫さんや田村さんの気持ちをくみとりきれず不信感を抱かせて本人たちの会見に至らせてしまったのは、吉本の芸人マネジメントの完全な失敗を意味している金銭の受け取りはテレビ局などへの説明を済ませてからの申告で吉本側の動揺も大きかったのだろうが、もっと早くに世間に公にして謝罪すべきだった。対応が後手に回り続けたことが宮迫さんらの会見で浮き彫りとなり、欺かれていたと感じた世論、そして芸人たちは反感をいっそう募らせた。

 吉本興業は、大崎洋氏(現・吉本興業ホールディングス会長)が社長に就任した2009年に非上場化に踏み切った。一方で、軸足をより東京に移し、各地の自治体を相手にするなどビジネスの幅を広げてきた。ただ、長年支えてきた生え抜きのベテラン社員が上層部への不満から社を去るなど、根幹である芸人との付き合い方を深く理解する人材の層が薄くなったことが問題が深刻化した背景にあるように感じる。

 会見で、岡本社長は宮迫さんらに「テープ録(と)ってんちゃうの」などと話したのは「冗談」と説明。「全員クビや」発言は振り込め詐欺の被害者への思いが伝わってこなかった芸人たちの姿に憤り、父が息子に「勘当や」と言うような感覚だったという。仲間として接することができた時代と社長の立場にあるいまでは受け止められる言葉の重みが変わっていることに気づいていなかったのではないか。

 今後は芸人たちとのコミュニケーションの改善をはかるとして「自分自身を変えていく」。岡本社長はそう述べたが、打開策の具体性に乏しかったこの会見でにわかに信頼が戻るほど芸人は生やさしい存在ではないだろう。

 そして、反社会的勢力から金銭を受け取ったことにはじまり契約解消まで至った芸人への処分撤回をわずか3日後に言い出す一貫性のない社の姿勢に、果たして社会は納得するだろうか。(篠塚健一)