ムニューシン米財務長官は24日、「長期的には強いドルが米国経済にとって有益であり、近い将来に弱いドル政策を掲げることはないだろう」(ブルームバーグ)と述べた。CNBCとのインタビューでの発言。発言はさらに続く。「強いドルを信じている。それが力強い米国経済や良好な株式相場を表している。そして特に大統領の経済政策によって、米国は他国を上回るペースの経済成長を達成している」と。「強いドル」に対する思いは良くわかる。だがその思いは、米国の政策対応と矛盾するのではないか?だから「あえて長期的には」と前提条件をつけているのだろう。トランプ大統領は「弱いドル」を追求している。財務長官もこの発言で大統領の逆鱗に触れるのか?他人事ながら心配になる。

ブルーンバーグによるとトランプ政権は、米政府がこれまで維持してきた強いドルを支持する姿勢を軟化させてきた。対中貿易摩擦や他国との関税問題を抱える米国は強いドルではなく「安定した為替レート」、要するにドル安を望んでいる。だからトランプ氏は再三にわたってFRBに利下げを要求している。中央銀行の独立性を維持しながらパウエル議長も「予防的利下げ」という言葉を生み出し、来週開かれるFOMCで0.25%の利下げを実施するとみられている。これは明らかな通貨安政策だ。米国は世界中の国々に対して通貨安政策を取らないように警告している。警告とは名ばかりで、実態は恐喝だろう。言うことを聞かなければ追加関税をかけると脅す。G20首脳会議で合意した通貨安政策を取らないという国際的合意違反である。でも誰も米国に追加関税をかけろとはいわない。

「トランプ大統領の目標は弱いドルではなく利下げであり、それがさらなる経済成長を促すと大統領は確信している」。この間の事情をブルームバーグはこう解説する。利下げは弱いドルを実現する政策である。大統領は弱いドルを望んでいるのではなく、利下げが目標だとある。利下げ=弱いドルである。意味は同じだ。現に大統領が利下げを要求するたびにドルは値を下げている。これは同じ通貨の表と裏を使い分けているに過ぎない。そんなことは百も承知だからムニューシン財務長官は「長期的には」とあえて付け加える。これも百戦錬磨の高等戦術だ。ドル安は短期、長期的にはドル高。短期的には輸出を増やし、長期的には対米投資を誘い込む。来年の今頃も同じことを言っているだろう。「短期的にはドル安、長期的にはドル高」、かくして米国の“一人勝ち”は続く。