安倍政権は年金、医療、介護など将来の社会保障に対する国民の不安を取り除くため、全世代型社会保障検討会議を発足させた。第1回の会合を20日に実施、冒頭で首相は「一億総活躍を掲げる安倍内閣にとって、全世代型社会保障への改革は、最大のチャレンジであります。少子高齢化が急速に進む中で、これまでの社会保障システムの改善にとどまることなく、システム自体の改革を進めていくことが不可欠です」とあいさつした。この会議の名称に全世代型とつくのが前から気になっていた。年金に代表されるように社会保障の対象は高齢者というのが一般的な認識だろう。そこにわざわざ「全世代型」を付けた。冒頭のあいさつには「全世代型社会保障への改革」とある。これが一つのヒントか。

この意味は、いまの社会保障制度は高齢者を対象としたものであり、限定的な制度になっている。これを全世代に広げたい。そういう決意が「全世代型社会保障へ」の「へ」に込められているのだろう。ちょっと長くなるがこの後に続く具体策もみてみる。「まず消費税の使い道を見直し、子供たち、子育て世代に投資することを決定しました。来月から3歳から5歳まで、全ての子供たちの幼児教育・保育の無償化を行います。そして来年の4月から、真に必要な子供たちの高等教育を無償化します。同時に、元気で意欲あふれる高齢者の皆さんが、年齢にかかわらず働くことができる環境を整えることが必要です。70歳までの就業機会の確保の法制化や年金の受給開始年齢を自分で選択できる範囲の拡大、また疾病介護予防へのインセンティブ措置の強化などの方針を打ち出しています」と強調する。

すでに決まっている制度を若い世代にアピールしながら、「70歳までの就業機会の確保の法制化」「年金の受給開始年齢を自分で選択できる範囲の拡大」など、これから決める高齢者の負担増をさりげなく盛り込んでいる。別に安倍首相を批判するつもりはない。社会保障(福祉政策といってもいい)で肝心なのは分かりやすさだ。要するに負担と給付の関係である。高福祉−高負担か、中福祉−中負担か、低福祉−低負担か。もっと簡単に説明したほうがいい。低福祉−高負担という組み合わせはありえないから、ひょっとすると政権は高福祉−低負担を考えているのかもしれない。改革に向けた本音をシンプルに表現すべきだといっているに過ぎない。無償化で若年世代の負担が軽減しても、税負担、給付の繰り延べや実質的削減など、社会保障の負担は全世代に及ぶ。頭は隠しても尻は隠せないのである。