こういうのを怪我の功名というのだろうか。ブルーンバーグによると、「老後に備えて資産運用を始める動きが個人の間でじわり広がり始めた。掛け金が全額所得控除されるなど税制面でメリットのある個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の申込件数は、『2000万円問題』をきっかけに金融機関で伸びている」というのだ。老後資金が2000万円不足するという金融審議会の報告書をめぐってすったもんだしたのはつい数カ月前だ。野党の突き上げで麻生財務大臣(金融担当大臣)は報告書を受け取らず、メディアは軒並み金融庁や金融審議会を批判した。その騒動がきっかけとなってイデコの申し込みが急増しているというのだ。政治家やメディアより国民の方が、はるかに問題の本質を理解しているということだ。
ブルーンバーグの記事をさらに引用する。「国民年金基金連合会によると、7月末のイデコ加入者数は前年同月比34%増の131万1045人。7月は新規加入者が同8.5%増の3万6778人と高かった。オンライン証券最大手のSBI証券では、イデコ口座の申し込み件数が6、7月、いわゆる2000万円問題が注目される直前の5月に比べて約1.5倍増えた。マネックス証券でも同様に6、7月はイデコ申し込み件数が約1.5倍だった」とのこと。年金はあてにならない。老後の生活を安定させるためには自分で対策を考えるしかない。非課税のイデコに加入しよう。おそらくそんな雰囲気が、政治家やメディアの懸念をよそに国民の間に広がったのだろう。国に頼れないなら自分で自分を守る。国民の方が将来を見据えた行動を取っている。
年金、医療、介護を中心とした社会保障の改革議論が本格的に始まった。安倍政権は対象を「全世代」に拡大することによって新たな負担と受益のシステムに衣替えしようとしている。だが見通しは暗い。新しく新設された「全世代型社会保障検討会議」に名を連ねた日本を代表するエスタブリッシュメントに、なぜイデコが増えるのか理解できる人がいないからだ。社会保障には3つの基本的な理念がある。自助、公助、共助だ。少子高齢化が進む中で将来的には公助に頼れなくなっていく。そうすれば自助でカバーするか、公助と組み合わせた共助の機能を高めるしかない。イデコの急増はとりあえず自助で始めようという国民の意思の現れのように見える。公助は自助をサポートするもの、少なくとも自助の足を引っ張らないものであるべきだ。だが、いまの改革論議にはこの視点が欠けている。
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