5年ごとに実施されている年金の財政検証が発表され、これを受けて安倍政権は社会保障の抜本改革に向けて「全世代型社会保障検討会議」を発足させた。この会議の目的は年金、医療、介護など団塊世代の後期高齢化で費用が増大する社会保障の財政健全化である。議論は始まったばかりだが、少子高齢化が進む中で特効薬はない。あるのは受給開始年齢の選択肢拡大など制度の微修正ばかり。幼保無償化など消費増税にともなう無償化はすでに始まっている。現役対策先行は理解できるが、これとて抜本対策とはほど遠い。政府のすすめる財政健全化の本質は負担増と給付削減にある。抜本改革という名の目くらましによって、社会保障制度の危機が逆に見えなくなっている。そこがこの問題の本質だろう。
危機に直面している日本の社会保障制度。中でも年金は日本国内だけでなく国際的にみても評価されていないようだ。ニューヨークに本社を置く世界的な人事・組織のコンサルティング会社であるマーサーは、毎年世界中の年金のランキングを発表している。さきごろ発表された2019年版のランキングによるとトップはオランダ、最下位はアルゼンチン。日本は集計対象の34カ国中29位で下から5番目。総合評価はDで最下位のアルゼンチンと一緒だ。ランキングは40以上の項目について「十分性」「持続性」「健全性」について数値化している。年金制度に国民は不信感を抱くが、どうやら国際的にみても信頼感がないようだ。
マーサー・ジャパンの年金部門代表を務める北野信太郎氏は、「総合指数は少なからず改善がみられた」と一定の評価をする。理由は「確定拠出年金(DC)法の改正、並びにiDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)の普及等によるDC制度の活用」にあるという。年金には公的年金と私的年金があるが、北野氏の解説を大胆に言い換えれば「日本の公的年金のマイナスを私的年金が少しだけ補った」ということになる。政府が意気込む抜本改革は公的年金の負担増を目論むものだが、これに伴う不満を私的年金が「少なからず」補っているということだ。ということは、全世代型社会保障検討会議に必要な視点は、民間を含めた総合的な制度の見直しだろう。この視点が検討会議にはない。
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