安倍首相の目下最大のテーマは、「全世代型社会保障検討会議」の取りまとめだろう。同検討会議は100年安心できる持続可能な社会保障制度の樹立に向けて、今月中に中間報告をまとめる予定。まずは年金改革の方向性を中間報告という形で打ち出し、来年の6月までに医療と介護を含めた全体の改革方針をとりまとめる予定になっている。その上で来年度の経済財政運営の大枠を決める「骨太の方針」に、社会保障改革の全体像を盛り込む方針のようだ。前回もこの欄で書いたが、こうしたプロセスを展望した議論の中で、拡大する格差の是正とか社会的弱者に対する配慮という理念が、この検討会の議論を通じてほとんど見えてこない。全世代型といえば老若男女を含めた全日本人を対象にしているように聞こえるが、実体は財政基盤を強化するための弱者切り捨てのように見える。
今年の当初予算ベースの社会保障給付費の総額は123.7兆円に達する。内訳は年金が56.9兆円、医療が39.6兆円、介護・その他が27.2兆円。団塊世代が後期高齢者入りする2022年以降、この数字は急拡大する見込み。高齢者が急増するわけだから当然といえば当然である。ちなみに2025年度は140兆円、2040年には188兆円から190兆円に拡大すると財政当局は見立てている。これにどう対応するか。答えを見い出すのが、全世代型社会保障検討会議の使命である。答えは案外簡単に出る。「入るを図って出るを制する」、誰が考えてもこれ以外に方法はない。現状を大改革して国民皆保険とか皆年金制度そのものを廃止するという答えだってあるかもしれない。しかし、選挙で選ばれた政治家は誰もそんなことは考えない。官僚や学者も労多くして実入りの少ない抜本改革に意欲を示さない。
必然的に現行制度の部分的な手直しが主流になる。在職老齢年金制度、厚生年金の加入条件、後期高齢者の自己負担引き上げ(1割から2割へ)、医者に行くたびに支払う定額負担制度の創設、ジェネリック薬品の浸透、健保や介護におけるインセンティブ制度の拡充・強化など、現行制度の手直しが主流になる。在職老齢年金制度のように、就労促進を目指して65歳以上の働く高齢者を優遇する制度改革にも意欲を示している。こちらは与野党から高所得者優遇との批判が出て実現を見送ることになったようだが、非正規雇用者やアルバイト、パートの厚生年金加入の義務付けなど、中小企業や弱者の負担増を見込む改革案が目白押しだ。世界中で緊縮財政批判が芽吹き始めた中で、財政再建と持続可能な社会保障改革という相容れない二兎を追う安倍政権。ますます八方塞がりになってきた。
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